言葉をしゃべり、馬に乗る猿たちが、再びビッグスクリーンに戻ってくる。 5月10日から全世界同時公開中の『猿の惑星/キングダム』の舞台は、2017年公開の『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』から数世代を経た頃。世の中を仕切るのは猿となり、人間は野生化してしまった。猿たちはあちこちに分散して住んでおり、過去の三部作で猿たちを統率したシーザー(アンディ・サーキス)の伝説についても、知らない猿は多い。
◆ ◆ ◆ 「普通の人」の遭難を取材する理由 羽根田治といえば日本における「山岳遭難ルポ」の第一人者として知る人ぞ知る存在である。『山はおそろしい』『ドキュメント 道迷い遭難』『山岳遭難の傷痕』『生還』……自身も登山を趣味とし、日本山岳会会員で長野県山岳遭難防止アドバイザーを務める羽根田が、事故の当事者たちへのインタビューを通じて、事故の核心と人間心理の綾に迫っていく作品群は、圧巻の一言に尽きる。 そもそも羽根田はなぜ「山岳遭難ルポ」を手掛けるようになったのだろうか。 「ライターの仕事を始めたころに山岳警備隊の本(『山靴を履いたお巡りさん』)をまとめる仕事を手伝ったんです。そのときに隊員らからいろいろな話を聞いていく中で、新聞やテレビで報じられる遭難事故のニュースの裏には、遭難者や救助者たちの知られざる思いやドラマがあるんだな、と感じたのが最初のきっかけです」 そう語る羽根田の表情は、著作
「2017年から聖書の記述がコオロギも食べてよいと変更された。闇深い」 「コオロギ事業に6兆円」 こうしたデマがSNSで盛り上がり、次第に食用コオロギの安全や栄養、飼育効率への疑問が叫ばれ、現在進行形の牛乳廃棄やフードロスの問題と未来への備えである食用コオロギ開発の問題が混ざり合って語られるように。そうして反コオロギ派の声は「両論併記」の形で、広く浅く広まっていったというのが大まかな流れのようだ。 「その結果ネットにそれほど詳しくない人たちが煽られ、昆虫食事業者に怒りと不安の長電話をかけてきたり、ハガキを送りつけるという状況になっています」 昆虫食のニュースが増えたワケ そもそも広く一般から注目されたのは、2013年にFAO(国際連合食糧農業機関)が昆虫食についての報告書を発表したのが出発点だ。これまで途上国の野生食材として2000種以上が数億人に食べられてきた昆虫について、あらためて先進
食用昆虫科学研究会の理事長・佐伯真二郎氏。現在は国際保健NGOの活動として、ラオス農村部の栄養と所得を改善するために昆虫養殖普及の技術開発を担っている。Twitterアカウント名は「蟲喰ロトワ」(写真:佐伯氏提供) 「例えば昆虫食初心者に、アレルギーが起こりうることを事前に説明しない。イベントや動画配信で昆虫の生食パフォーマンスをする。罰ゲームや騙し討ちに使う。要は提供者の不手際や、目立ちたがり屋が調子に乗ることで、食中毒やアレルギーなどの食品事故が起こるだろうと。そして世間がそれ見たことかと、提供者と食べた人を『自業自得』と責めるだろう。そう予想していました。 だからせめて私が参加する昆虫食イベントでは、誤解による食品リスクを最小限にするため、説明の上で同意書を書いてもらってから提供するなど、万が一の事故や炎上が起こった時の備えをしてきました」 「コオロギ食」大炎上のきっかけ ところが今
世界を広げた「邑子ちゃん、学校のないときは受付やるか」 ――高校生になってからも通院は? 後藤 続いてました。ちょうどその頃、M先生が大学病院の近くに血液検査専門の診療所を開いて、血液検査や薬をもらうだけだったら、そこでも大丈夫でした。 その頃は先生とも仲良くなっていて、学校帰りに診療所によく遊びに行っていたら、「邑子ちゃん、学校のないときは受付やるか」って言われて、そこでアルバイトするようになりました。 ――ずいぶん活動的になりましたね。 後藤 その診療所、歓楽街のど真ん中にあったんです。だから、ソープランドで働く女性たちがよく性病の検査に来てました。お互い患者として会っているうちに仲良くなって、私は彼女たちと話すのが好きだったので、そこでアルバイトするのは好都合でした。 当時、私は明るく振る舞っていても、やっぱり病気は辛くて、「なんで私だけこんな体なんだ」って、しょっちゅう怒ってたんで
終戦の日を活写した半藤一利の不朽のベストセラーを、漫画界のレジェンドがコミカライズ。コミック『日本のいちばん長い日 上・下』がいま話題になっている。降伏か、本土決戦か、それとも……。独自の新解釈で運命の24時間を描いた漫画家の星野之宣さんに、コミック版ならではの読み所についてお聞きした。 父に連れられて観た映画版 ――漫画化の話があった時は、どうお感じになりましたか? 星野 私は昭和29年生まれで、太平洋戦争はもちろん経験していません。ただ、子供の頃、街角に傷痍軍人が立っていたり、親世代の体験談を聞いたりして育ってきました。ある種のリアリティをもって、あの戦争を描けるかもしれないぎりぎり最後の世代なんじゃないかと思ったんです。 1967年公開の映画版は、中学生の時に、父に連れられて映画館で観ました。その父も終戦時に中学生(高等小学生)だったんですが、玉音放送を聞いた時の日記をつけていて、晩
戦地に赴くウクライナ兵の軍服の肩には、青い髪の少女のイラストが施されたワッペンが縫い込まれていた。憂いを帯びた表情の少女の名は「綾波レイ」。日本の人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のキャラクターだ。なぜ彼は、綾波のワッペンを装着しているのか。 エヴァのヒロインの一人・綾波レイ 5月6日、「ドミトリー・ムラチニク」を名乗るツイッターアカウントが、綾波のワッペンの写真を投稿。瞬く間に5万以上の「いいね」が付き、世界中から応援メッセージが送られた。 エヴァンゲリオンは主人公・碇シンジや綾波らが、「汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン」に乗り、謎の敵「使徒」の襲来に立ち向かう物語。1995年からテレビ放送され、その後20年以上に亘り劇場版が制作された。ウクライナ研究会会長で神戸学院大学の岡部芳彦教授が解説する。 「ウクライナでは、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、『美少女戦士セーラームー
いま、海外の研究者や映画業界関係者などから、日本の「ヤクザ文化」について注目が集まっている。 ヤクザの不当行為を取り締まる「暴力団対策法」は、2022年で施行から30年を迎えたが、同法と、2010年以降に全国の自治体で施行された暴力団排除条例によってその活動は大きく様変わりした。さまざまなシノギを失ったヤクザは、高齢者を餌食とした卑劣なオレオレ詐欺などにも手を出し、逮捕者が続出している。 一方で、海外に広がっているのはこうした事実とは異なるヤクザ像だ。 ◆ ◆ ◆ アメリカで論文『ヤクザの正当性』を作成? 《ヤクザは震災の時に炊き出しをして、被災者に寄り添った。犯罪者ではなく、男気のあるジェントルマンたちだ》 「このようにとらえている海外の研究者は多いですよ。海外では、ヤクザは男気のある任侠集団というイメージも強く、アメリカのある調査チームは『ヤクザの正当性』という論文を作成しようとしてい
実家の地下室から天井まで超常現象に溢れていた…主演は“本物”の家系 『ゴーストバスターズ』製作のはじまりは、主演でもあるダン・エイクロイドが長年温めていた企画がきっかけだった。 彼の一族は、先祖の時代から降霊術会に参加して幽霊を呼び出していたという“本物”の家系で、曾祖父は神秘主義者、父親も『A History of Ghosts(幽霊の歴史)』という本を出版していて、ダン自身も神秘主義者なのだ。家のあちこちにアメリカ心霊現象研究協会の会報が散らばっていたりと、実家の地下室から天井まで超常現象に溢れていたという。 映画の原案では、近未来を舞台に超心理学を用いてゴースト退治を競い合うスペクタクル感あふれるファンタジーだった。だが、実現までの間にそこからどんどん二転三転していく。 当初はダンと同じくアメリカNBCのコメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」のメンバーであり、『ブルース・ブラザース
ライオンの頭を無防備になで、ワニの口に笑顔で頭を入れる。ライオンに右手の中指を食べられてもまったく懲りる気配すらない。“動物愛”という枠を大きくはみ出した畑さんの生き方は日本中を魅了した。1980年に始まった「ムツゴロウとゆかいな仲間たち」はあっという間に人気番組になり、平均視聴率は20%に迫った。 しかしTVシリーズは2001年に終了し、2000年代後半には北海道の中標津から東京のあきる野市に移転した「ムツゴロウ動物王国」も閉園。3億円とも言われる巨大な借金を抱えたが、それもあふれるバイタリティで完済し、現在は40年前に移り住んだ北海道の中標津にある大自然に囲まれたログハウスで生活している。
「情報公開制度」を利用し、昼は普通のサラリーマンでありながら、政権の数々の疑惑をつかみ、報道機関にスクープを提供してきた陰の立役者が、“開示請求の鬼”の異名を持つWADAさんだ。WADAさんは2020年9月、日本全国に散らばる“同志”と集い、「開示請求クラスタ」という組織を立ち上げた。メンバーはSNS上で出会い、「会ったこともなければ、本名すら知らない」(WADAさん)という20人弱の精鋭で構成されている。 情報公開制度とは、民主主義の根幹である国民の「知る権利」を保障し、誰もが自由に国や自治体が持つ情報にアクセスできるべきという考えから、2001年に情報公開法が施行されて生まれた制度だ。インターネットでも簡単にダウンロードできる「開示請求書」に記入し、手数料を払って送れば、手続きは完了。原則30日以内に開示の可否が決定され、コピー代やスキャン代を払えば、資料を受け取れる。 スウェーデンで
8月7日、メンタリストのDaiGoは、自身のユーチューブチャンネルで、「ホームレスに存在価値はない」「生活保護の人たちに食わせるくらいなら、猫を救ってほしい」などと発言し、批判が殺到した。 ホームレスや生活保護受給者など、社会的弱者を切り捨てるような発言を目にした浅草キッドの水道橋博士は、ある芸人の姿を思い出したという。その芸人とは、怪談話で知られる稲川淳二氏。実は、稲川氏の活動の影には、難病を抱える次男の存在があったのだ。水道橋博士が芸人の姿を紹介した書籍『藝人春秋』(文藝春秋)より、稲川氏の家族の実像を紹介する。(全3回の2回目/3回目を読む) ◆◆◆ 優秀な工業デザイナーとしての実績を持つ稲川さん 稲川さんの経歴も芸人として異色である。 東京の渋谷で育ち、小学校の頃は遊び場だった有栖川公園で、すでに地元の顔役だった安岡力也と遭遇していて愚連隊のような学生生活を送る。 しかしそのまま不
演出責任者の相次ぐ交代など迷走を重ねた五輪開会式。今回入手した11冊にも及ぶ台本には、その過程が詳らかに記されていた。なぜ、どのようにして、開会式は“崩壊”していったのか。小誌だけが書ける全内幕――。 そのセレモニーは、新国立競技場に1台のバイクが颯爽と走ってくるシーンから幕を開けるはずだった。大友克洋氏の漫画『AKIRA』の主人公の愛車、赤いバイクだ。会場に映し出されるカウントダウンの数字。ゼロになると、中央のドームが開き、ステージに3人の女性が姿を見せる。Perfumeだ。会場には、彼女たちをプロデュースする中田ヤスタカ氏の書き下ろし楽曲が流れている。 Perfumeの出演は幻に終わった 精魂込めて作り上げた210分間のステージが、全世界の人々を虜にし、アスリートたちの背中を押していく。演出振付家・MIKIKO氏と彼女が率いてきたチームにとって、東京五輪の開会式はそんな晴れ舞台となるに
マリ共和国から日本に移り、“いけずな町”京都で暮らして約30年……。 京都精華大学の学長を務めるウスビ・サコ氏が、空間人類学をベースに“京都人”を分析した書籍『アフリカ人学長、京都修行中』(文藝春秋)が話題を集めている。彼が語る京都生活で感じた不思議とは? 同書の一部を抜粋し、紹介する。 ◆◆◆ 京都の一見さんお断り、その本意は? 京都市には毎年5000万人を超える観光客が訪れています。その一方で、昔から「よそ者に冷たい」「一見さんお断りの店がある」と言われ、どこかとっつきにくい印象があります。 30年近く住んでいる私から見ても、京都はなかなかクセのある町ですから、観光客が戸惑うのも無理はありません。 ある日、アンスティチュ・フランセ関西(旧・関西日仏学館)の副館長夫人から私に電話がかかってきました。かなり落ち込んでいる様子です。日本人はヒドい、差別をする……。よく聞くと、ご友人のフランス
筆者の父は、母が亡くなってからの10年間、八王子の一軒家でひとり暮らしをしていた。単独行動を好んでいた父は独居に向いた人だと、筆者も、筆者の妹も思っていた。料理も好きだし、囲碁やゴルフなどの趣味もある。近所の人たちや母の友人たちが、ときどきお総菜などを持って訪問してくれることも安心材料だった。原付に乗って気ままに出かけ、好きなものを作って食べているだろう、プロ野球を見ながら焼酎を飲んでいるだろう。そう思っていた。 いつのまにか「話をしたい人」になっていた父 異変に気付いたのは父が80歳の、4年前の冬だった。 連絡をせずに、実家へ帰ったときだった。母の姉、筆者の伯母が来ていた。伯母はなぜかそそくさと帰った。10万円がテーブルに置かれていた。 「返してくれたんだよ」「え、貸してたの?」「困ってるっていうから」 キッチンの引き出しに入っている家計の通帳を見る。数回に分けて、数十万円が伯母の口座に
2008年10月に山形市内で開かれたトークショー。『北の国から 2002 遺言』(フジテレビ系)で「黒板五郎」が語った“遺言”のセリフを、田中邦衛さんがあの独特の間と口調で朗読し始めると、会場には嗚咽が広がり、最後は号泣する人まで現れたという。 田中さん自ら手書きした“遺言状” このトークショーで聞き役を務めたのが、山形県内でラジオパーソナリティとして活動している荒井幸博さんだ。エフエム山形やYBCラジオに出演し、山形市内での映画祭やトークショーのコーディネイトをするなど、山形に根差した活動をしている。講演やトークショーにはほとんど出演しない田中さんが、「荒井さんが聞き手なら出る」と言うほど信頼を寄せた人物だ。 「本番前に、遺言の部分を書き写したものをお渡しして、これを読んでもらえますかとお願いしたら、邦衛さんは照れながらも了承してくださった。でも読む前に自分の手でもう一度、全部、書き直し
車椅子ユーザーの伊是名夏子氏が「JRで目的駅が無人であることを理由に『乗車拒否』されたのは合理的配慮を欠く対応である」旨をブログで述べたところ、逆に「なぜ事前連絡しなかったのか」「下調べや想定が甘い」「感謝が無い」等の非難を受ける事態となった。 彼女が訴えたニーズ自体は、私も含め大半の車椅子ユーザーに共通している。その表現方法も、バリアフリーを求める障害者運動としては極めてオーソドックスだ。 今回、多くの人が「自分も当事者になり得る身近な問題」と捉えた事は大変嬉しいが、駅員に感情移入するあまり、障害者を個々人の糾弾が目的のクレーマーのように誤解されているきらいもある。 しかし障害者にも各々の生活があるので、周囲を虐めて楽しもうと敢えて揉め事を起こす程暇な人は稀だ。にも関わらずそうしたステレオタイプが根強いのは「普段何に困っていて、それをどう処理しているのか」という素朴な実感が共有されてない
2021年3月8日、延期に延期を重ねた映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」がついに公開となった。初日から2週間の興行収入は50億円に迫り、観客動員数も322万を突破。これについて文春オンラインという一般メディアが音楽家である自分に原稿を依頼してくることからも作品が社会現象となっている事実が窺える。 だが25年の長きにわたって生き続けたエヴァとその完結について何かを書くのは非常に難しい。すでに公開当日からネットでは数々の考察が飛び交っているし、「私とエヴァンゲリオン」とも言うべきその人自身の人生と作品を照らし合わせた文章も数多く公開されている。 まずは無難に作品を振り返ってみようと思う。 次回予告が絵コンテ状態…物議を醸したTV版 最初にエヴァが大きく物議を醸したのは1995年10月から翌年3月にかけて放送されたTV版の終盤における展開だった。次回予告から徐々に動きが削られていき、つい
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