7月2日。東京都議選で自民党が惨敗を喫することになるその日、将棋界は長い一日を迎えていた。藤井聡太四段の30連勝をかけた一戦。コンピューター将棋が名人を負かし、不正疑惑にも揺れた将棋界は、新たな天才の登場を固唾をのんで見守った──。 「29連勝。脱帽です」 将棋界の人気者の一人である佐藤紳哉七段が、満を持していたかのように、さっとカツラを脱いでみせた。やや薄くなった頭部には、黒字で大きく「29」と記されている。 2017年6月26日。将棋界の若き天才、藤井聡太四段(14)が、史上最多記録の、29連勝を達成した瞬間のパフォーマンスだった。 「諸君、脱帽したまえ。天才だ」 若き作曲家、フレデリック・ショパンの楽曲を評して、ロベルト・シューマンは、そう絶賛した。ある分野に、一人の天才が現れ、まばゆいばかりの未来が予感される。そうした歴史的な場面に立ち会う高揚感に、いま将棋界全体が包まれ