野田サトル『ゴールデンカムイ』を評価したいことの一つは、日露戦争症候群をきちんと描いていることにある。 戦争後遺症の問題は、二次大戦後のものも含めて、日本で扱われることは少ないのだが、日露戦争やシベリア出兵については殆ど関心すら持たれていない状況にある。中でも日露戦争については、司馬史観に代表される「明治の男たちが苦労の末頑張って勝利した」で終わってしまっている。 早速見てみよう。 1905年(明治38年)の米の生産高3818万石で、平年より14%減収となった。これは戦時動員による働き手の不足と、同じく戦時動員による物資不足と肥料高騰、さらに牛馬が動員されたことで労働力と肥料が失われたことが大きいとされる。特に東北は悲惨で、福島では前年比76%、岩手では66%という有様で、農民はクヌギや樫の実、ゴボウの葉、ワラビや葛の根を食べて糊口をしのぎ、それでも足りずに衣類を売り払って、冬を迎えてもロ