2012年11月24日、鳥栖市内のダイニングバー。夜の店内はほとんどの席が埋まっており、時折、どっと笑い声が弾けた。その数時間前、水沼宏太は店から歩いて数分のベストアメニティスタジアムで、大挙押し寄せたアウエーサポーターを沈黙させ、熱心に声援を送ってくれたホームサポーターを歓喜させている。浦和レッズを相手に3-1と快勝。達成感に肌が粟立ち、体の芯はまだ熱いままだった。 「うまいっすね」 水沼は快活な笑みを浮かべ、佐賀牛のステーキを上品に口に運んだ。それは大のサガン鳥栖ファンだというお店のご主人が、特別サービスで出してくれた一品だった。律儀な青年は礼儀正しく礼を述べ、頼まれたいくつかのサインに快く応じ、甲斐甲斐しく配膳していた女性店員の携帯電話の裏にもマジックを走らせた。 「好き嫌いはないです」 そう語る彼はたくさん食べる方だが、箸の使い方や食べ方に品があるからか、大食いという品のない印象を