高橋さんは、声を上げる余裕もないまま一目散に逃げだした。記憶に残っているのは、後方から聞こえる「助けて」という警察官のか細い声と、自分を追い越して逃げる消防隊員たちの姿だ。 「消防隊員たちと車に戻って息を整えていると、血だらけになった若い警察官が戻ってきたんです。右耳から顎までが割れていて、鼻の半分はえぐれてなくなっていた。あまりにも凄惨な状態だったもので、脳裏に焼きついてはなれません。 その後、中年の警察官が身体を引きずるようにして歩いてきました。『腕に力が入らない』と口にしたのを覚えています。腕を攻撃されて神経を損傷したのでしょう。すぐ2人は救急車で搬送されました」(高橋さん) その後、クマに襲われないよう重機で遺体を搬送することになり、林道を広げる工事を行った。ようやく遺体を回収できたのは、死亡から1週間が経った22日のことだ。 「佐藤さんは、山菜やタケノコを売ったわずかな稼ぎと、身