実在の図書館司書に材をとり、本を愛する者たちの闘いを描く長編小説――『リスボンのブック・スパイ』(アラン・フラド著/髙山祥子訳)訳者あとがき全文公開! 装画:安藤巨樹/装幀:中村聡『リスボンのブック・スパイ』訳者あとがき髙山祥子 本書のタイトルに〝ブック・スパイ〟とあるが、ブック・スパイとはなんだろう。本のスパイと聞いて、どんなイメージが浮かぶだろうか? わたしたちにとって本は身近な存在で、娯楽や慰めとなり、生活に必要な情報を提供してくれるものでもある。だが貴重な情報源であるがゆえに、場合によってはとても危険な存在にもなりうる。 ヒトラー率いるナチス・ドイツは全体主義体制の一党独裁政治をおこない、ユダヤ人を迫害し、反ドイツ的な文化を排斥はいせきした。その象徴的な事例の一つに〝焚書ふんしょ〟がある。一九三三年五月、火によって書物を浄化するとして、ドイツ国内の多くの大学都市で反ドイツ的とされる