朝日新聞の書評を見て購入した佐原徹哉『ボスニア内戦』(有志舎)を読む。ボスニア内戦の原因とその経緯について、すばらしくよく調べられ、簡潔にまとめられた好著。著者、ぼくと同い年なんだなあ。これを読んでしみじみ思ったのは、人間はいかに愚かなのかということである。人間は愚かで進歩を知らない生き物だ。こんな一節がある。 ジラスが村に入ると、頭を後ろから撃ち抜かれた二人の農夫の遺体が大きな梨の木の下に横たわっていた。そこでは他に六人が殺され遺体は運び去られていたが、幾つもの黒ずんだ血跡が草の上に残っていた。さらに進むと、道の真ん中に二〇人程の遺体が山になっていた。成人男性の遺体は二つしかなく残りは女性と子供たちだった。近くにはまだ温もりが残る揺りかごが転がっており、頭部を砕かれた嬰児の死体が傍らにあった。赤ん坊の左側には胸部を叩き潰され腹部がぷっくりと膨らんだ女の子の遺体があった…… これはスレブレ
Will Kymlicka and Magda Opalski (eds.), Can Liberal Pluralism Be Exported?: Western Political Theory and Ethnic Relations in Eastern Europe. ウィル・キムリッカの名はロシア・東欧研究者の間ではあまり広くは知られていないが、政治理論・法哲学などの分野では世界的に著名なカナダの研究者である(1)。その理論の概要を敢えて乱暴にまとめるなら、基本的にリベラリズムの立場に立ちつつ、従来のリベラルが軽視しがちだった集団的アイデンティティの問題を正面から見据えることでリベラリズムを豊富化しようとするものといえるだろう(2)。種々の民族・エスニシティ論、共同体論、フェミニズムなどからの挑戦を限定的に吸収しつつ、リベラルな多文化主義論を構築するのが彼の課題である。この試
「キャリアデザインマガジン」第72号のために書いた書評を転載します。 不安定雇用という虚像―パート・フリーター・派遣の実像 作者: 小泉静子,佐藤博樹出版社/メーカー: 勁草書房発売日: 2007/11/08メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 50回この商品を含むブログ (16件) を見る きわめて刺激的なタイトルの本だが、内容はそれと裏腹に、データの分析を中心としたまことに堅実な研究書という感がある。その手法たるや、共著者のひとりである佐藤博樹氏が心血を注いでいる東京大学社会科学研究所附属日本社会研究情報センターのデータアーカイブ(SSJDA)経由で、リクルートワークス研究所が実施したアンケート調査の個票データを再集計したという地道きわまりないものだ。佐藤氏はこの本の版元である勁草書房のウェブサイトで「著者らの意図は副題にある」と書き、続けて「パート、フリーター、派遣などに代表さ
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