『ジャンキー』とバロウズのことば (W.S.Burroughs『Junky』(2001 年 9 月, IGC ミューズ)解説、 pp.177-180) 山形浩生 どんな分野でも、ある作家なりクリエーターなりアーティストなり(そしてその人の作品)が名前を残すための条件がある。それはもちろん、単に売れるものを作ればいいという話じゃない。「芸術性」の高いものを作ればいいというわけでもない(というか、そもそも「芸術性」ってなんだ?)大作家が、そのジャンルの王道にしたがって押しも押されもしない大作を発表したら、その時にはほめられる。でも、やがて忘れ去られるだろう。真に記憶されるためには、その分野やジャンルそのものの拡大や更新、生命力に貢献しなきゃいけない。 そしてウィリアム・バロウズ『ジャンキー』は、小説(少なくとも英語圏の小説)の生命力に貢献してくれた小説だ。 たとえばジョン・ケージが、ピアノを一