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ブックマーク / cruel.org (15)

  • It's the language, stupid! :a column on "Junky"

    『ジャンキー』とバロウズのことば (W.S.Burroughs『Junky』(2001 年 9 月, IGC ミューズ)解説、 pp.177-180) 山形浩生 どんな分野でも、ある作家なりクリエーターなりアーティストなり(そしてその人の作品)が名前を残すための条件がある。それはもちろん、単に売れるものを作ればいいという話じゃない。「芸術性」の高いものを作ればいいというわけでもない(というか、そもそも「芸術性」ってなんだ?)大作家が、そのジャンルの王道にしたがって押しも押されもしない大作を発表したら、その時にはほめられる。でも、やがて忘れ去られるだろう。真に記憶されるためには、その分野やジャンルそのものの拡大や更新、生命力に貢献しなきゃいけない。 そしてウィリアム・バロウズ『ジャンキー』は、小説(少なくとも英語圏の小説)の生命力に貢献してくれた小説だ。 たとえばジョン・ケージが、ピアノを一

  • ダイアモンド『銃、病原菌、鉄』2005年版追加章について

    ダイアモンド『銃、病原菌、鉄』2005年版追加章について 山形浩生 草思社の倒産で一時はどうなるかと思った『銃、病原菌、鉄』邦訳だが、無事に復活して文庫にもなって、まずはめでたい。おもしろいだし非常に含蓄があるので、これが入手困難になるのは大変痛かったもので。 しかし、アマゾンのレビューを見ていると、変な記述に出くわした。これだ: 翻訳されていない一節 (Tsiroeht Emag) 訳されなかった章がある? そんなバカな。草思社が(愚かにも)参考文献をカットしたのに怒ってみんなで訳したときに、原書はちゃんと見ているがそんな章はなかったぞ。(なお、草思社も知恵をつけて、その後参考文献をウェブで公開したうえ、文庫版にはちゃんと載せているのでご安心を。)それも日人に関する章で人間宣言がどうしたこうした? そんな最近の話を扱っているわけもないと思って、コメントにもそう書いたんだが…… 調べて

  • CUT 2002/12 Book Review

    無謀だが壮大な試み:でも堂々巡りになってないか? (『CUT』2002 年 12 月) 山形浩生 その昔、ここでもレビューしたダイアモンド『銃・病原菌・鉄』を読んだときの感動というのは、人間の発達の大きな流れが、実は地域的な物質環境でここまで規定されてしまうのか、という驚きとともに、ここまで無謀なことをたくらむやつが、よくもまあいたもんだという感動だった。人間の数万年にわたる歴史を、ここまで単純化して説明してしまうとは! たいがいの人間であれば「いやあ、まあ歴史にはいろんな要因がありますから、そんな簡単にはいえませんよ」と慎重かつ臆病なコメントをして、こうした試みにはそもそも手をつけようとしないだろう。それをやってしまったばかりか、まがりなりにもつじつまをあわせてしまうとは。恐れ入りました。 マイケル・マン『ソーシャルパワー』を読んだときの印象もそれに近い。石器時代からはじめて現代まで、人

    microgravity
    microgravity 2011/11/25
    「ソーシャルパワー:社会的な<力>の世界歴史」ローレンス・レッシグの唱える人を規制する四つの力
  • YAMAGATA Dojo 1997/11

    山形道場 連載第24 回 words 山形浩生(hiyori13@mailhost.net) 今月の喝! ではなく讃!! 「ネットワーク共産主義」(その1) 共産主義は死んだ、というのは90年代のクリシェなんだけれど、もちろんそんなのはデタラメだ。昔から富や権力は一部の人々に集中してきたわけで、それに対し平等と共有に基づくシステムの方がいいな、というのはみんな考える。それは今後も不変だ。 が、共産主義は常に敗北し続けてきた。やっぱり人はどうしても自分がいちばんかわいいし、見栄もある。それに「共有」って実は不可能だ。このを他人に貸したら、自分の手元にはなくなる。共有は、自分を犠牲にして他人に与えるという行為を含む。そこまでの自己犠牲を日常的にみんなに要求できるか。つらい。でもそれができないと、共産主義は長期的には成立しない。 マルクスは、産業革命に伴う生産力の向上に希望を託した。大量生産に

  • "Against the day" Review

    ピンチョンの意地悪な新作 Thomas Pynchon, Against the Day (Penguin, 2007) (『一冊の』2007 年 9 月号 pp.26-7) 山形浩生 要約: 十九世紀末のシカゴ万博ではじまり、ウェスタン小説とアナキストの価値薬と、四元数とニコラテスラと、中央アジアのシャンバラ探索とリーマン・ゼータ仮説と飛行船少年冒険物語とツングースカ大爆発とをからめた得体の知れない収拾のつかない変な話。細部の深読みに喜びを見いだす人は大いに楽しめるだろうが、結局何だったんだ、という小説ではあって、読むヤツいるのか、という感じ。実は読者にイジワルしようとしてピンチョンが書いてるだけじゃないかとも思うのだが。 トマス・ピンチョンの新作が出たのはしばらく前のことなのだが……いったいこれをどうまとめていいものやら。もともと謎の作家として評価の高いピンチョンの各種小説は、そのほ

  • ポール・クルーグマン (Paul Krugman)

    ポール・クルーグマンはニューヨーク郊外の SF 少年として生まれ育った。ハリ・セルダンにあこがれて心理歴史学の道を志したものの、諸般の事情で挫折、失意のうちに経済学の道に入ったが、その後じわじわと頭角を現し、収穫逓増に基づく新貿易理論の旗手、為替理論、同じく収穫逓増に基づいた経済地理での活躍、調整インフレ論、そして経済解説者/コラムニストとしての辣腕振りなど、驚異的な活躍を見せるようになる。 クルーグマンの経済学における第一の功績は、貿易理論の刷新だった。1960 年代までの貿易理論は、デヴィッド・リカード の比較優位論におおむね基づいていた。なぜ貿易が起こるのか? それは各国には地理や資源面で差があるからだ。ある国はリンゴをつくるのに適してる。ある国は石油がとれ、ある国は飛行機づくりが得意。いちばん得意なものに特化してそれを交換するのが貿易だ、というわけだ。しかしながら実際の貿易は、先進

  • cruel.org - ALC Column

     月刊『マガジン・アルク』/『アルコムワールド』 連載コラム『山形浩生の:世界を見るレッスン』 (2006-2017) 語学学校や語学教育では有名なアルク社がやっている、クラブアルクというのがある。同社の通信講座を受けたりしている人が、もう一歩進んでそれを実際に仕事につなげたりとかしたいな、というような会員制のクラブ。雑誌『マガジン・アルク』は、その会員向け雑誌で、一応は学習やあっせん事業の宣伝用の雑誌ではあるのだけれど、でもかなりそこから広げて旅行や国際理解にまで記事や特集をたくさん載せていて、悪くない雑誌。結構有名どころがコラムを書いていたりしているし。 そんなところに書くようお声がかかっているのは、変なところへ(しかもバックパック旅行でなくて)行っているので、欧米だけじゃない国際的視点を入れようとかそういう意図なんだろう。各回 1600 字程度、原稿料 2 万円。かつて『旅行人』で

  • 倫理的な食べ物はかえって有害かもしれない。

    倫理的なべ物はかえって有害かもしれない。 (The Economist Vol 381, No. 8507 (2006/12/09), "Good Food?" p. 10) 山形浩生訳 (hiyori13@alum.mit.edu) 賢いお買い物で世界がよくなると思ったら大間違い。かえって悪くするかもしれませんぞ。 「政府が動くのを待つ必要はありません……フェアトレードがすばらしいのは、買い物できるということです!」とフェアトレード運動の代表者が今年、イギリスの新聞で語っていた。同じように、ニューヨーク大学の栄養学者マリオン・ネッスルは「有機品を選ぶということは、農薬の少ない、土壌の豊かな、水のきれいな地球に投票すると言うことなのです」と論じている。 買い物こそが新しい政治だという発想は、確かに魅力的だ。投票箱なんかどうでもいい。買い物かごで投票しようというわけだ。選挙はあまり頻繁に

  • Levitt "Freakonomics" review

    相撲の八百長と経済学のフロンティアとの関係とは。 Levitt et al., Freakonomics: A Rogue Economist Explores the Hidden Side of Everything (William Morrow & Co, 2005) (『一冊の』2005年7月号) 山形浩生 要約: Levitt Freakonomics は、現代経済学の来るホープの一人、レーヴィットの研究を一般向けにまとめた経済読み物集である。変わった現象を経済学的に説明するという(それも思いつきではなく、ちゃんとデータを元に検討を加えて解説する。その現象も、相撲の八百長や子供の命名、ギャングの家計簿など笑えるものばかりで、きわめて楽しくも洞察に富んでいる。 書を読んで、二、三度驚きの声をあげない人はいないだろうし、また何度か笑い出さなかった人もいないだろう(もっとも扱われ

  • CUT 1995.06 Book Review(「市場制民主主義――選挙権を売ろう!) - 山形浩生

    ねえ T.N. 君。今の民主主義なんて、くだらないと思いませんか。だれもちゃんと、民主主義のあるべき姿なんか考えてないと思う。カンボジアくんだりにでかけてって、原住民に形式的に選挙させて喜んでる連中なんて脳が腐ってると思う。小学校の学級会の水準から一歩も進んでないと思う。だって一人一票とかいうけれど、あのバカの一票と、このおれの一票が同じ価値なわきゃないんだから。そう思ったことのない人間は、そもそも物を考えたことのないバカか、でなきゃよほどの聖人だ。選挙をタレント人気投票と勘違いして、今の某知事みたいな連中を選んじゃうやつらに選挙権をくれてやっていいの? 普通選挙制はまちがってると思う。安易すぎると思う。車の運転にすら、資格試験があるんだよ。なんで二十歳になったくらいで、ホイホイ気軽に選挙権をやっちゃうわけ? ねえ T.N. 君。そう思いませんか。きみの願った普通選挙制のなれの涯てを見て、

  • アルゴリズムとしてのアート

     アルゴリズムとしてのアート (季刊『InterCommunication』2004 年 2 月頃) 山形浩生 要約: アートというものは、人間の機能探索を主目的としており、それはある種のアルゴリズム探索であるとともに、それ自体がアルゴリズムともなり得るのである。 そもそも、アートとは何なのか、ということから始めよう。最近邦訳の出たスティーブン・ピンカー『心の仕組み』では、あらゆることが進化生物学的な必然性の中で説明されていた。その中で芸術などがどんな必然性を持っているのか、そして人はなぜそういうものを作ってきたのか、という話も少ししている。それはある種のパターン認識やストーリー認識を行うことが生存において重要な役割を果たしたために、そうした認識を「だます」ことで成立している各種のアートや表現というものが、人々に受け入れられるようになった、という議論だった。宮代真司はかつて、男に比べて女

  • ポール・オースターインタビュー for GQ Japan by 山形浩生

    Paul Auster インタビュー (『GQ Japan』1996 年春) 山形浩生 (その時の録音カセットが出てきたので mp3 にした。wmp版 と RealAudio。全部で 50 分くらい(あと wmp版が firefox ではうまくいかん)。) ポール・オースターの仕事場は、ニューヨークはブルックリンのパーク・スロープと呼ばれる一帯にある。落ち着いた静かな近隣で、煉瓦造のアパート群がならぶ感じはちょっとスノッブなボストンを思わせる。実際、文化的にも非常に由緒正しい場所で、レズビアン・コミュニティが独自の文化圏を形成しているのがこのあたり。かつてグリニッジ・ビレッジにゲイ・コミュニティが成立し、新しい文化を華開かせたように 有名どころではアンドレア・「すべて男が悪いんじゃ!」・ドウォーキンもこの近辺の住人だし、あまり有名でないところでは、拙訳『ニグロフォビア』が最近刊行されたダリ

  • What's a Hack?

    この文はすずきひろのぶ氏の「Hackの語源」(iso-2022-jpになってる)に対して、もうちょっと広い立場から補足説明をしたものだ。 すずきさんの解説は、まちがっちゃいないけど、ちょっと話がコンピュータ(それとMIT)に偏りすぎだと思う。Hackってのは MIT だけのことばじゃない。英語ではもう少し広い使われ方をすることばなんだもの。「キーボードをたたくのが切り刻む動作に似てるから」なんて某所の解説もどき(ぜんぜん似てねーだろが!)は、愚にもつかないかんちがいだけど、でも「切り刻む」というのが語源にあるのは事実ではあるのね。 Hackというのは、そもそも基は鉈や斧やまさかりや山刀で切る、裁ち落とす、というイメージのことばなんだ。すずきさんがあげている「 hack through the jungle」というのは、まさに鉈でジャングルを切り拓きながら進むイメージ。 そして鉈で切るとい

  • 伽藍とバザール

    Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 訳    リンク、コピーは黙ってどうぞ。くわしくはこちらを見よ。 プロジェクト杉田玄白 正式参加作品。詳細は http://www.genpaku.org/ を参照のこと。 1999/07/30版、1999/08/16訳更新, 2000年5月2日更新 原文の最新版はhttp://www.catb.org/~esr/writings/cathedral-bazaar/にて各種フォーマットで入手可能。 翻訳の pdf 版はhttps://cruel.org/freeware/cathedral.pdfにある。 翻訳の PostScript 版 (tar+gzip圧縮)はhttps://cruel.org//freeware/cathedral.tgzにある。 第 2 部 「ノウアスフィアの開墾」 (Homesteadi

  • 『はだかの王様の経済学』は戦慄すべき本である

    研修資料の余白に:『はだかの王様の経済学』は戦慄すべきである (2008/06/16, 17 日に 注 等細かい加筆, 22日にコメントなど加筆。) 山形浩生 要約:松尾『はだかの王様の経済学』は、解説されている疎外論がひがみ屋の責任転嫁論でしかないうえ、それを根拠づける「来の姿」だの「実感」だのがあまりに恣意的で確認しようがなく、まったく使えない。そして「みんなで決め」ればすべてうまく行くというお花畑な発想は悪質なニュースピークによる詐欺であるばかりか、最後にはポル・ポトまがいの抑圧思想に直結していて戦慄させられる。 目次 序 「設備投資」は「コントロールできない」か? 疎外とはひがみ屋の天国である。 「来の姿」ってだれが決めるの? 市場を超える「話し合い」って? 「みんな」で決めればだれも不満はない? おわりに 稿への反応など 蛇足コメント 1. 序 松尾筺『はだかの王様の経済

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