ブックマーク / www.aozora.gr.jp (3)

  • 森鴎外 ヰタ・セクスアリス

    金井湛(しずか)君は哲学が職業である。 哲学者という概念には、何か書物を書いているということが伴う。金井君は哲学が職業である癖に、なんにも書物を書いていない。文科大学を卒業するときには、外道(げどう)哲学と Sokrates 前の希臘(ギリシャ)哲学との比較的研究とかいう題で、余程へんなものを書いたそうだ。それからというものは、なんにも書かない。 しかし職業であるから講義はする。講座は哲学史を受け持っていて、近世哲学史の講義をしている。学生の評判では、を沢山書いている先生方の講義よりは、金井先生の講義の方が面白いということである。講義は直観的で、或物の上に強い光線を投げることがある。そういうときに、学生はいつまでも消えない印象を得るのである。殊(こと)に縁の遠い物、何の関係もないような物を藉(か)りて来て或物を説明して、聴く人がはっと思って会得するというような事が多い。Schopenha

  • 中島敦 狐憑

    ネウリ部落のシャクに憑(つ)きものがしたといふ評判である。色々なものが此の男にのり移るのださうだ。鷹だの狼だの獺だのの靈が哀れなシャクにのり移つて、不思議な言葉を吐かせるといふことである。 後に希臘人がスキュティア人と呼んだ未開の人種の中でも、この種族は特に一風變つてゐる。彼等は湖上に家を建てて住む。野獸の襲撃を避ける爲である。數千の丸太を湖の淺い部分に打込んで、其の上に板を渡し、其處に彼等の家々は立つてゐる。床(ゆか)の所々に作られた落し戸を開(あ)け、籠を吊して彼等は湖の魚を捕る。獨木舟を操り、水狸や獺を捕へる。麻布の製法を知つてゐて、獸皮と共に之を身にまとふ。馬肉、羊肉、木苺、菱の實等を喰ひ、馬乳や馬乳酒を嗜む。牝馬の腹に獸骨の管を插入れ、奴隸に之を吹かせて乳を垂下らせる古來の奇法が傳へられてゐる。 ネウリ部落のシャクは、斯うした湖上民の最も平凡な一人であつた。 シャクが變(へん)

  • 2017年01月01日「土地とともにあるパブリック・ドメイン」- そらもよう

    今年も青空文庫の誕生日である7月7日がやってきました。 今日までその活動を27年間地道に続けて来られたのは、実作業で支えてくださった多くのボランティアのみなさんと、収録された作品をさまざまに楽しみ、その可能性を広げてきてくださったユーザのみなさんのおかげです。 あらためて御礼申し上げます。ありがとうございます。 さて、2023年1月1日から継続して進めて参りました「式年遷宮」ですが、ようやく新規データベースサーバの引っ越しの目処がつきました。 元旦でお知らせしていた日7月7日からの運用には間に合いませんでしたが、この8月から実データを構築中の新データベースに移し、そして運用を試験して大きな問題がなければ、この秋には引っ越しを完遂したいと考えています。 (もちろん試用しながら都度バグフィックスを行う必要が生じますので、夏のあいだにタイミングを慎重に見極めなければなりません) ともあれ、お

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