米国の推理小説作家ダン・ブラウンの大ヒットした長編『ダヴィンチ・コード』のなかで、主人公ロバート・ラングドン教授がレオナルド・ダヴィンチの「最後の晩餐」を指してこう解説する。中央に座るイエスの向かってすぐ左側に座る人物は、イエスの12使徒のなかでひときわ若くなまめかしく描かれており、その長い髪はまるで女にしか見えない。「このなかの一人が私を裏切るだろう」と言うイエスの言葉に他の使徒たちは怖れ、驚くが、左手の人物は悲しげな顔をしているだけである。しかも聖書には「イエスの愛しておられた者がみ胸近く席についていた」としか書かれておらず名前もない。そしてなによりイエスとこの人物とのあいだには不自然なほどの距離があいており、そのひらいた空間はアルファベットの「V」のかたちをしている。「V」は杯のかたちであり、それは聖杯を意味する。さらにこの左手の人物を左右裏返すと、ちょうどイエスの肩にしなだれかかる
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