掲示物を壁に貼り付けるときには欠かせない文房具・画びょう。しかしこの画びょうを1つ1つ丹念に手作りする「画びょう職人」が存在していることを知る人は少ない。技術を受け継ぐ後進が育たなかったため、今まさに失われようとしている画びょう職人への取材を試みた。 群馬県邑楽(おうら)郡。日本最後の画びょう職人・板倉実さんは、この地の人里離れた山奥に一人居を構える。板倉さんは今年で98歳。15歳のときに職人を志し、以来80年以上にわたり、ただひたすらに画びょうだけを作り続けてきた。 画びょう職人の朝は早い。板倉さんが作る画びょうはまず素材の選別から始まる。主な素材は銅だが、これらに20種類を超えるさまざまな金属を少量加えることによって最高の画びょうが完成する。その配合率は代々職人の家系のみが知ることを許された一子相伝。少しでも配合を誤ったり不純物が混じったりすると、錬成の過程で針にわずかな歪みが生じるこ