後腐れ 夜の都が帯びた鋭利な喧噪と、家並の間に淀む色とりどりな夕餉《ゆうげ》の香りを感じながら、逃走を続けるアマネは後方から迫り来る追っ手の気配を察知し、鋭く後ろを振り返った。 ――左、屋根の上。 夜に紛れ、顔は見えない、だがわかる。 影の形は追っ手が偉丈夫であることを示唆している、不自然に左手首を掴みながら、人間離れした動作で的確に歪な屋根の上を渡っている。その挙動には余裕が窺えた。 追っ手の名はグエン、人類世界、東方一帯を統べる大国ムラクモで、実質全権を掌握する大人物である。指先一つで大勢の運命を決定できるこの男は今、自らの足で追ってきている。 追跡の動機は明白、奪われた物を取り返そうとしている。左手の甲についた命の石、輝石もろともに切り落とした手首が、まるで持ち主の意思を反映しているかのように、逃走の足を重くする。 追っ手は市街地の建物の上を獣のような身のこなしで軽々と渡り、じわりと