試し読み 単行本 - 日本文学 町田康訳「奇怪な鬼に瘤を除去される」(『宇治拾遺物語』より) 訳・町田康 2020.03.13 伊藤比呂美/福永武彦/町田康訳『日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』(池澤夏樹=個人編集 日本文学全集)収録 これも前の話だが、右の頬に大きな瘤のあるお爺さんがいた。その大きさは大型の蜜柑ほどもあって見た目が非常に気色悪く、がために迫害・差別されて就職もできなかったので、人のいない山中で薪を採り、これを売りさばくことによってかろうじて生計を立てていた。 その日もお爺さんはいつものように山に入って薪を採っていた。いい感じで薪を採って、さあ、そろそろ帰ろうかな。でも、あと、六本くらい採ろうかな、など思ううちに雨が降ってきた。ああ、雨か。視界の悪い雨の山道を歩いて、ひょっ、と滑って谷底に転落とかしたら厭だから、ちょっと小やみになってから帰ろうかな、と暫く待ったの
![町田康訳「奇怪な鬼に瘤を除去される」(『宇治拾遺物語』より)|Web河出](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/2a8717b824bbf53e617e810f952150c3cc506bf1/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fweb.kawade.co.jp%2Fwp-content%2Fuploads%2F2020%2F03%2Ftumblr_inline_nuv8lwIRMa1tzxp5o_500.jpg)