鎌倉期の仏教説話集に『撰集抄(せんじゅうしょう)』がある。 芭蕉も愛読した『撰集抄』は、古くは漂泊の歌人・西行の作と信じられていたが、真偽のほどは疑わしい。いずれにせよ、この書にはユニークな説話が満載で、そのおもしろさを素直に受けとめたい。 説話のひとつ「西行於高野奥造人事」は、死者の骨から人造人間を造ったという、なんとも不思議な話だ。西行が造りあげた複製人間とはどんな代物だったのか。おぞましくも奇妙な物語を紹介しよう。 『撰集抄』五巻十五話「西行於高野奥造人事」 西行は高野山で修行中の身である。 ともに修行していた同朋に去られた西行は、語り合う友だちがほしくなり、かつて習った人を造る法をこころみる。西行は野に出て、死人の骨をとり集め、頭から手足へと骨を連ねた。そうしてとりあえずできあがったものは、色が悪く、人の姿に似てはいるが心がなく、声はあるが、まるで吹き損じた笛のような音をしていた。