(7)に戻る 芥川賞作に大連の想い《大連の五月は…こんなに素晴らしいものであったのかと、幼年時代や少年時代には意識しなかったその美しさに、彼はほとんど驚いていた》 前回、旧制旅順高のくだりで紹介した作家で詩人の清岡卓行(たかゆき=平成18年、83歳で死去)。芥川賞受賞作『アカシヤの大連』(昭和44年下期)には外国からの租借地を故郷とする矛盾に苦悩しつつも、大連への迸(ほとばし)る郷愁が綴(つづ)られている。 清岡は大正11(1922)年、日本統治時代の大連に生まれた。父親は満鉄技師。大連一中(旧制)から昭和15(1940)年に新設された旅順高(旧制・関東州)の1回生として入学するも、わずか3カ月で退学、フランス文学を本格的にやりたくて一高(同・東京)を受け直す。旧制高校でフランス語を第一外国語とする「文丙(ぶんぺい)」クラスがあった学校は一高など、わずかしかなかった。 一高から東京帝大仏文