人形芝居がただ人の所作の模倣にすぎないのなら、そんなものはとうに滅びていただろう。私たちがいまなお人形たちの動きに惹きつけられるのは、彼らの「人間そっくり」な演技につきまとうカクカクしたぎこちなさが、そこで描かれている悲喜劇をいったん突き放し、抽象化してしまう力を秘めていればこそである。麻耶雄嵩の小説にはいつも、そんな人形芝居を思わせる抽象性の魅力が横溢している。 各編の表題にウインナ・ワルツの曲名をかかげつつ、極端に人を食った設定と律儀な推理とを同居させた『貴族探偵』は、その意味で、いかにもこの作者らしい短編集だ。お洒落で優雅で色好みな貴族探偵が黒塗りのリムジンに乗って登場し、どこか下世話な現代日本の殺人事件に首を突っ込む。といっても、「生活?そんなものは召使にまかせておけ」というヴィリエ・ド・リラダンの放言さながら、ときに鮮やかな、ときに精緻な推理を繰り広げるのは、もっぱら執事やメイド