「無礼な、そこへ直れ!」 額に青筋を立てた加賀の殿様が刀に手を掛けました。手打ちにしようとしたのは、目の前にある小さな人形。お盆に載せたお茶を持ってゆるゆると前進し、お客さんが湯飲みを取り上げると、くるっときびすを返して戻る、あのカラクリ人形です。正式には「茶運び人形」と言います。 カラクリ人形は、江戸時代の人たちには魔術のように映ったようです。おもてなしの一興としてお座敷に出したところ、殿様の側まで近づいた人形が首をもち上げてキッとにらみつけたように見えたということで、手打ち騒ぎになりました。こうした逸話が残っているのは、それくらいにリアルに見えたということの証左でしょう。 これまでこのコラムでは、バイクや携帯電話、マネキンといった現代の技術から「ニッポン的ものづくり」の強みを探ってきました。今回は、いつもと少し趣向を変えて、日本が誇るべきプレ近代の優れた技術にフォーカスしたいと思います