高校の教科書には今でもおそらく収録されているだろう「山月記」の作者・中島敦の主要著作は何かと問えば複数の回答があるだろう。絶筆となった「李陵」、独自のユーモアで描かれる「南島譚」、処女作の才気溢れる「古譚」。しかし、どうしても外せないのは、長編小説といってよいと思うが、「光と風と夢」である。 当時芥川賞に落選したことからも評価の難しい作品でもあるだろう(参照)。私も十代にたしか角川文庫で読み、後、ちくま文庫の全集が出た頃にも読んだが(参照)、華麗な文体と衒学的な趣味に惑わされ、今ひとつ全貌が理解しづらい作品に思えた。が、先日から、iPhoneアプリのi文庫で嘗めるように読み返し、昨日読み終えて圧倒的な感動を覚えた。 不思議な構成の作品でもある。「宝島」で有名な英国作家スティーヴンソン(Robert Louis Balfour Stevenson)の、オセアニアのサモアで暮らす死に至るまでの