「歩く死体」の話をしよう。 ただし、あの怪談は気がつくたび、さまざまなかたちへと姿を変えてしまう。いったいどの「歩く死体」から語りだせばよいのか……少々悩むところだ。 まあ、それはたいてい雪の山小屋から始まる。たとえば、こんな風に――。 * * * とある山小屋にて、男二人の死体が発見された。二人とも銃で撃たれているが、特に争った形跡はない。また奇妙なことに、一人は自殺、もう一人は死後に弾を撃ち込まれたようなのだ。 現場に残された手帳には、震える筆跡で、ここ数日間の記録が記されていた。そのメモ書きから推測されたのは、以下のような事件である。 どうやら二人は測量技師で、山岳地帯での作業中、吹雪に巻き込まれたらしい。なんとか山小屋に避難できたのは幸運だったが、風と雪に閉じ込められるうち、一人は肺炎をこじらせて死んでしまう。「俺が死んでも一人ぼっちにしないでくれよ」と言い残して。 とはいえ密室の
![vol.4 歩く死体を追いかけろ!(前)――吉田悠軌の異類捜索記|晶文社](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/a1b8f3f095ffcae2609308dbbd43ce912ab06a03/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fassets.st-note.com%2Fproduction%2Fuploads%2Fimages%2F33958306%2Frectangle_large_type_2_7dd24227150310fe96251356f4797b85.jpg%3Ffit%3Dbounds%26quality%3D85%26width%3D1280)