小説に関するmurasaki_kairoのブックマーク (9)

  • 殺人するか心中するかそれが問題だ|ムラサキ

    春が近付いた。 箱崎はこの三日ほど悩んでいる。 を殺してしまおうか、と。 悩みはもう一つある。 自分も死んでしまおうか、と。 箱崎は細かいことに拘らない男であったので、三日も悩むと悩むことにも疲れてきて、どうせ悩むなら旅行でもしながら悩むことに決めた。 傷心旅行ならぬ懊悩旅行である。 行く先は東北に決めた。平泉を北上して盛岡、青森を寄り道しながら竜飛岬まで行くつもりだ。 閑散期のため宿は比較的簡単に取れた。 二年前に免許証を返納してしまったので、電車の切符も取った。特急にしようかと思ったが確たる目的があるわけでなし鈍行にした。 何をか察して嫌がるを説き伏せて、荷造りを終えて我が家を後にした。 上野から延々鈍行に揺られ平泉に着いたのは夕方だった。宿に荷物を置いてを連れて散歩に出た。 平泉の目的は中尊寺であった。奥州藤原氏の盛衰を身に沁みませながら此度の旅行に思いを馳せたかった。 金色堂

    殺人するか心中するかそれが問題だ|ムラサキ
    murasaki_kairo
    murasaki_kairo 2018/01/19
    短編小説を書きました。うーん改稿しないといけないな。
  • 伝承異聞「ポスト」|ムラサキ

    古翁の村にポストが来た時の話。 村にも郵便制度が拡充し、役場の隣に郵便局ができた。同時に村で初となるポストが局の前に設置された。 朱色に塗られて屹立するポストは村民の耳目を集めた。 翁の言葉を借りれば村に郵便ブームが到来したのである。 その古翁もまた東京に出た兄を慕って葉書を書いた。 まだ幼かった翁は字が上手に書けない。しかし、見様見真似でなんとか住所と簡単な挨拶を書いた。 葉書は子どもには高価な代物であったので、翁の持つ駄賃では買うことはできない。 家の文箱に仕舞われていた葉書をこっそり拝借した。 あとは葉書をポストに投じるだけとなったが、葉書を無断で拝借したことの後ろめたさから、往来の多い日中にポストに近寄ることが憚られた。 かくして少年であった翁は夜半に家を抜け出して、人気のない往来を進みポストに葉書を投函する旅を決行したのである。 誰かに見つかるのではないかと冷や冷やしながら、なる

    伝承異聞「ポスト」|ムラサキ
    murasaki_kairo
    murasaki_kairo 2018/01/17
    創作民話シリーズ。 村にポストが来た話。 明治四年に前島密が郵便制度を開始。この舞台は明治末期を想定している。
  • 伝承異聞「自動車」|ムラサキ

    自動車がまだ珍しかった頃の話。 舗装もされていない村道に土煙を立てて自動車が走ると、近所の子どもたちがその後ろを追いかけるのであった。 ある日、村道をまた一台の車が走っていった。村の衆はまた車が通りよるわいと、畑から車に目をやった。 車の天井に女が立っていた。 白い着物を着ている。 車は女を乗せたまま走っていく。 村道を走るとき、大抵の車はがたがた揺れるが、その女が揺れている様子はない。 異様な気配を察して子どもたちもその時ばかりは車を追いかけることをやめた。 ただ、自動車が珍しい時代である。 村人たちも自動車とはああいうものなのかもしれないと自らを納得させて、口々に 「はて」 と呟いただけだった。 「しかし」 と当時を振り返り老爺は語る。 「今考えりゃ異常だ。」 ちなみにその時走った車は当時、村にあったどの車でも無かったという。 同じ古翁から自動車にまつわる話をもう一話伺う。 時代が下っ

    伝承異聞「自動車」|ムラサキ
    murasaki_kairo
    murasaki_kairo 2018/01/13
    民話や昔話が好きなので、自分で作るようになりました。創作民話と呼ぶそうですが、民話って語り継がれたものだから創作の時点で偽物感が強いですよね。 なんか良い呼び名がないかなあ。
  • 幻燈紀行「岩窟の村」|ムラサキ

    冬になると訪れたい村がある。 その村は山を幾つも越えた所にあるので、中々に足が遠い。交通機関も不便である。 冬の日の数日を過ごすため、僕はその村に向かった。町からバスに乗って二時間かかる。 案の定途中で乗客は皆降りた。 寡黙なバスの運転手と寡黙な僕は黙々と山道を進んだ。 途中、運転手に一度だけ話しかけられた。 「お客さんは何をしに行きなさる?」 僕はなるべく丁重に返事を返した。 「冬になると、僕は何故かその村が恋しくなるのです。村をまとう温もりがそうさせるのでしょう。」 「温もりがあるかね。」 「ありますよ。少なくとも宿屋には。」 「あの村の宿は一つしかない。」 「そうだったかな。宿の人たちは良い人ですね。」 会話はそれで終わった。 岩壁に挟まれた隘路を越えてバスは村へと到着した。 僕は寡黙な小旅行の同伴者であった運転手に挨拶をした。 「直ぐに町へと戻るんですか?」 「これはバスだからね。

    幻燈紀行「岩窟の村」|ムラサキ
    murasaki_kairo
    murasaki_kairo 2018/01/13
    旅行に行きたくなると旅小説を書きます。まだ見たことのない不思議な街や人々に出会いたい。でも出不精で人見知りなので小説に夢を託しています。
  • 猫だって翼があれば飛べる|ムラサキ

    ジャングルジムのような家で育った よく考えればあれはごみ捨て場だった 俺が兄弟と思っていたものは孤児たちで 親と思っていたものは 孤児を売買する仲買人だった ゴミ捨て場のマガジンが世界の全てで ある日拾ったマガジンの ポーンスターのピンナップが 俺の神になった 仲買人はヤクを決めると 俺たちを集めて 終末の悪魔がもたらす厄災の話で 俺たちをビビらせた しかし仲買人はとうとう 神様自身の話をしなかったので 俺達はめいめいが 自分の神様を作って 毎日の礼拝を捧げていた 兄弟たちは ホモセクシャルに走る奴もいたが そいつらは大抵 変な病気になったので 俺はセックスは悪いことだと 考えるようになった 俺のピンナップの神様は 俺達とは全く違う造形で 美しかった 何より凄く太っていて 俺達みたいに痩せてない 分厚い真っ赤な唇 真っ青な瞼 すべてがセクシーだった 兄弟たちは買われたり 消えたり 増えたり

    猫だって翼があれば飛べる|ムラサキ
    murasaki_kairo
    murasaki_kairo 2018/01/13
    廃退的な文章が書きたくて 小説みたいな詩みたいな物を書きました。 昔観た映画に影響を受けています。ナチスの将校がユダヤ人の少女に恋をして歪な愛情を注ぐと言った内容なんだけど、タイトル忘れました。
  • 短編小説「夜のプールと古代生物」|ムラサキ

    「夜のプールと古代生物」村崎懐炉 高校の構内にあるプールに真夜中、僕たちは忍び込んだ。 防犯用の青いLEDライトが水面に反射して揺れていた。 「博物館に行くのが好きだったんだ。」 と僕は言った。 博物館の階段の下には人造池が造られていた。そこには水が張られて鯉が泳いでいた。もしかしたら水草も生えていたかもしれない。 僕の記憶が曖昧なのはその場所の照明がいつも消されていて、人造池は影の落ちた黒い水たまりでしかなかったからだ。 時折見える錦鯉の背中以外にどのような生き物がその黒い水たまりにいるのか、幼い僕には想像するしかなかった。 階段下の黒い池に棲む生き物たちについては、当時夢中になって読んでいた古代生物図鑑がリンクされて、その場所は僕の中ですっかり白亜紀の森林にできた溜池と化していた。 石畳の人造池の底にはきっと扁平な頭をしたディプロカウルスが両生類特有の緩慢な動作で這い回っているに違いな

    短編小説「夜のプールと古代生物」|ムラサキ
    murasaki_kairo
    murasaki_kairo 2017/12/15
    光の粒子が水の中に満ちていくのが好きです。
  • 短編小説「博物館にて」|ムラサキ

    「博物館にて」村崎懐炉 博物館に行ってブラキオサウルスの骨格標を見上げていると、その年老いたブラキオサウルスは物静かに語るのであった。 昔は良かった。 こんなに狭々としていなかったし。 自由闊達としていたものだよ。 かつて彼にも同族の友人がいた。 彼らは午後の安らいだ時間を散歩や読書に充てて楽しんだ。時に詩論を討議し、熱を帯びて熱い紅茶の入ったソーサーを揺らした。 ブラキオサウルスたちはのんびりとしているので彼が友人と思っていた個体は彼より10歳も年上であったということ。 そして10歳年上であるということは少なくとも彼より10年は早く死期が訪れるだろうことに彼が気づいたのは、友人が死に瀕したその日である。 彼は友人のために樹木の枝葉を口元に運んだ。 友人は静かに笑っていた。 苦しくないか。 そう尋ねた。 苦しくはない。 友人はそう答えた。 何かして欲しいことはないか。 そう聞くと 友人

    短編小説「博物館にて」|ムラサキ
    murasaki_kairo
    murasaki_kairo 2017/12/15
    薄暗い博物館にてライティングされた古代生物の骨格標本に僕はわくわくとした興奮を禁じ得ない。
  • 絵のない絵本「魚の化物」|ムラサキ

    農夫がいた。 ある日お腹を空かせた農夫は水車小屋を後にして、旅に出かけた。 道端に年を取った岩男が座っていた。 彼の体は岩石でできていた。頑丈な体でよく働いたものだが、年を取ってからは関節が固まって動くのも難儀するようになった。 「何処へ行くんだ」と岩男が言った。 「べるものがないから、べるに困らない国を探しに行くのさ」 それを聞いて岩男が言った。 「よし、俺も行こう」 また旅を続けていると道端に木男がいた。 彼の体は木でできていた。若いうちは枝もよくしなって働けたものだが、年を取ってからは中身がスカスカになって枝がポキポキ折れてばかりいる。 「何処へ行くんだ」と木男が言った。 「べるに困らない国を探しに行くのさ」と岩男が言った。 「よし俺も行こう」と木男が言った。 三人が歩いていると道端に麻紐男がいた。彼の体は麻紐でできていた。 若いうちは物事を固く結びつけて、よく働いたものだが最

    絵のない絵本「魚の化物」|ムラサキ
    murasaki_kairo
    murasaki_kairo 2017/12/14
    相互扶助ということ。 助け合いの精神を童話にしました。 とてもそんな話に思えないって? おかしいなあ。
  • 絵のない絵本「スノウマン」|ムラサキ

    スノウマンは一人で山奥に住んでいる。小さな畑を持ち、野菜を育てている。 彼の所に訪れる者は萬(よろづ)屋のゴードンしかいない。 ゴードンは月に一回スノウマンにパンと町の四方山話を届ける。 スノウマンはゴードンから聞く町の話が好きだった。 町ではアン・メアリが結婚したとか、その相手が隣町の若者でパン屋の息子は失恋したとか。洋服屋のアンダーソンのが子を産んで、学校の飼育舎で子どもたちが世話をしているとか。他愛のない話ばかりであったが、スノウマンは愉しくそれを聞いていた。 ある日ゴードンは言った。 町ではみんな元気にやっているよ。大きなお祭りが始まるんだ。毎晩花火が上がるんだよ。 王様の軍隊が飛行機をたくさん飛ばしてフライトショーもやるんだ。 子どもたちは飛行機に向かって風船を飛ばすんだよ。 お祭りがあんまり大きいので学校もしばらく休みになるんだ、とゴードンは言った。 スノウマンは子どもたち

    絵のない絵本「スノウマン」|ムラサキ
    murasaki_kairo
    murasaki_kairo 2017/12/13
    どこにでも転がってるようなお話で大変恐縮です。深まりつつある冬に免じてお許し下さい
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