春が近付いた。 箱崎はこの三日ほど悩んでいる。 妻を殺してしまおうか、と。 悩みはもう一つある。 自分も死んでしまおうか、と。 箱崎は細かいことに拘らない男であったので、三日も悩むと悩むことにも疲れてきて、どうせ悩むなら旅行でもしながら悩むことに決めた。 傷心旅行ならぬ懊悩旅行である。 行く先は東北に決めた。平泉を北上して盛岡、青森を寄り道しながら竜飛岬まで行くつもりだ。 閑散期のため宿は比較的簡単に取れた。 二年前に免許証を返納してしまったので、電車の切符も取った。特急にしようかと思ったが確たる目的があるわけでなし鈍行にした。 何をか察して嫌がる妻を説き伏せて、荷造りを終えて我が家を後にした。 上野から延々鈍行に揺られ平泉に着いたのは夕方だった。宿に荷物を置いて妻を連れて散歩に出た。 平泉の目的は中尊寺であった。奥州藤原氏の盛衰を身に沁みませながら此度の旅行に思いを馳せたかった。 金色堂