赤い服を着たわたしを、あなたが見つけたのはもう十年も前。 あなたは三十歳になったばかりで、三十になったからには何かしなくてはという焦りと、三十になっても特に何者でもない自分へのちょっとした落胆と、三十なんて何の実質的な区切りでもない、という反発心のようなものを抱えていた。 でも、一応の節目として記念は欲しかった。本格的なジュエリー、お籠もり宿でのひとり旅、カシミアのコート。あれこれ考えている時にわたしたちは出会った。あなたがふと立ち寄ったセレクトショップにいたわたし——真っ赤なソファ。テキスタイルで二・五シーター、シンプルなハイバックのデザインは、あなたが以前から何となく家に置きたいと思っていたソファの理想で、目が合うや一直線に近づいてくると、わたしを至近距離で、すこし離れて、あらゆる角度から熱っぽく見つめるものだからわたしはすこし緊張した。女の人の目線は男の人のそれよりずっと厳しく、値段