ソロモン・ヴォルコフの『ショスタコーヴィチの証言』という本がある。中公文庫にかつて入っていて、私はこれで読んだがなかなか面白かった。 ところが、これが「偽書」だという。ヴォルコフがショスタコーヴィチに話を聞いて書いたというが、ヴォルコフは数回、短時間しかショスタコーヴィチに会っておらず、とてもこの分量は書けないというのだ。 さらに、ローレル・ファーイの研究によると、この本の中には、ショスタコーヴィチが自分で書いた文章も混じっているという。で、信用ならない本だというのだが、私はいつもここで引っかかる。ショスタコーヴィチが書いた文章が入っているなら、ヴォルコフが嘘をついた、ということは言えても、信用ならないということにはならないのではないか。 逆にいえば、まあ偉大な、ないしは舟橋聖一程度に名前の知れた人について、当人が死んだあとで誰かが何かを書いて、私だけが知っている、と言ったら、仮に未亡人が