日銀にインフレ(物價上昇)目標設定を要求する安倍政權が發足したことで、言論界の一部ではインフレへの警戒心が高まり、ハイパーインフレ(急激な物價上昇)の發生を警告する聲さへある。これに對し、日本はデフレ(物價下落)に苦しんでゐるのだから、心配は時期尚早だと反論する向きもあらう。だがそのやうにインフレへの心配は無用といふ心理が社會に廣がつたときこそ、ハイパーインフレは起こりやすくなる。一昨年刊行されたアダム・ファーガソン『ハイパーインフレの悪夢――ドイツ「国家破綻の歴史」は警告する』(黒輪篤嗣・桐谷知未譯、新潮社)を讀むと、それがよくわかる。 この本で描かれるのは、第一次世界大戰後のドイツを襲つた有名なハイパーインフレである。戰爭で息子を失つた夫婦が、生活のために蓄へてゐたカネまで無價値になり、自殺に追ひ込まれた話(109頁)や、買ひ物客がカネを入れて運んでゐたかごやスーツケースを泥棒に盜まれ
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