まえがき 私が満州事変について関心をそそられるようになったのは、第二次世界大戦の真の起点は、第一次世界大戦後に確立された国際平和機構が裏切られ崩壊した、この一九三一〜三三年危機の時期なのだ、と繰り返し主張されているのを耳にしてからである。二〇年前にレジナルド・バセットの『民主主義と外交政策』(Democracy and Foreign Policy)が出版されて以来、この極東危機とイギリスとのかかわりについての綿密な研究は、私の知るかぎり行われてこなかったように思われる。資料としては、公文書館の膨大な公文書だけではなく、数多くの私的文書の収集もある。その中には、公職にはついていなかったが、バセットがとくに関心を払った一人であるギルバート・マーレーやセシル伯といった人びとの書簡も含まれている。イギリスの極東政策に関するこれらの未公刊資料を調べるにしたがって、問題はアメリカの極東政策と密接にか