2024年大河ドラマ『光る君へ』で、主人公のまひろ(紫式部)が学んでいた歴史書『史記』。その執筆にあたって、司馬遷はどのようなものを参照したのでしょうか。古代中国王朝の「記録」を出土文献に探り、歴史観の興りや歴史認識の変遷を読みとく『古代中国王朝史の誕生』冒頭を公開します。 中国古代の歴史書に関して、筆者には好きな話がひとつある。『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』の襄公(じょうこう)二十五年に見えるエピソードである。春秋時代、現在の山東(さんとう)半島に位置する斉(せい)の国に崔杼(さいちょ)という重臣がいた。この人が棠姜(とうきょう)という未亡人にひと目ぼれして妻に迎えた。 ところが悪いことに斉の君主の荘公(そうこう)が以前からこの棠姜と私通していたのである。だから彼女が崔杼と再婚したあとも、荘公は崔杼の邸宅に通って関係を続けた。それだけでなく彼の冠を持ち出して人に与えて辱(はずかし