「Broken Tulip(ブロークン・チューリップ)」の存在をご存知だろうか。花びらや葉に、通常にはない複雑な模様が入った個体のことを指す。17世紀のオランダでは、このブロークン・チューリップが人々を熱狂させ、球根が高値で取引された。とくに赤色に白の線模様が入ったものは「センペル・アウグストゥス(訳:無窮の皇帝)」と名付けられ、家が一軒買えるほどの価格で売買されたという。ところがある時、その価格は突然に急落し、関わった人々を混乱に陥れた。人類が初めて経験したバブル経済「チューリップ・バブル」の成り立ちである。 前置きが長くなったが、アーティスト・井上隆夫は、このブロークン・チューリップを採集し、アクリルに封入し、作品化している。 「小さなヴォア」展会場風景より、《Broken Tulip, Apr. 25, 2018, t/56》(2018) Photo: Hajime Takeuchi