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ブックマーク / www.newsweekjapan.jp/joyce (5)

  • 即位60年、イギリス人にとっての女王とは

    2月6日、イギリスのエリザベス女王は即位60年を迎えた。僕だけじゃなく大多数のイギリス人が、エリザベス女王以外の君主を知らないというのは、改めてすごいことだと思う。 僕が人生で最初に体験した「歴史的瞬間」は、僕がまだ7歳だった1977年――エリザベス女王の即位25年だった。幼くてまだあまり時間の概念がなかったけれど、それでも25年は長い年月だというのは理解できた。 もちろん、女王の即位25周年は、記録に残したり勉強したりするようなたぐいの厳密な「歴史」ではないだろう。女王が今や50周年も60周年も通過して、さらにこのまま歴代最長記録を塗り替えそうな勢いだから、なおさらだ。でも僕にとってはとても重要な時だった。この即位25周年はまさに、子供の僕が「イギリス政府とは何か」という事実を理解しはじめた年だからだ。 女王の夫がなぜ国王ではないのか(僕は国王になるのが当然だと思っていた)、教えてもらっ

  • 消えゆくパブとパブ文化を救え

    東京に住んでいたとき、銭湯がつぶれてしまったのを見ると、とても悲しかった。銭湯は驚くべき速さで数を減らしていった。 銭湯はそれぞれに個性を持っていると、僕は思っていた。単に堂々たる建物だとか、リラックス空間だとかいうだけではない。銭湯は人々が出会い、交流し、会話する場所だった。 最近になって知ったのが「境界域」という概念だ。境界域とは、普段の社会的な交流における限界のラインが、いくぶん拡大する場所のこと。銭湯がまさにこれに当たる。いつもなら目を合わせようともしない人々が、言葉を交わし始め、時には知り合いにさえなる(ひょっとして裸でいるせいなのかもしれないが)。 だから、僕のお気に入りの「2002年版銭湯マップ」を持って銭湯めぐりに出掛けたのに、銭湯があったはずの場所がぽっかり空き地になっていたり、味気ない新築マンションになっていたりすると当にがっかりしたものだ。 ■銭湯とパブは絶滅危惧種

  • 「ヨーロッパ」に対する複雑な本音

    今から30年後、人々はきっと現在のイギリスを振り返って、あの時代のイギリス最大の問題は「ヨーロッパとの付き合い方」だったね、と言うことになりそうだ。 僕が言うこの場合の「ヨーロッパ」とは、EU(欧州連合)のことだ。地理的にはイギリスは明らかにヨーロッパに位置するが、島国のイギリス人として僕たちは、まるで自分たちはその一員ではないかのように大陸ヨーロッパについて語る。概して僕たちは、EUについても「あちら」のことだと考えがち。イギリスがその一部だという意識はあまりない。 イギリスが「ヨーロッパ」に参加したのは1973年。40年近く前で、僕はまだ幼児だった。だが参加を何年もためらっていたことからも分かるように、イギリス人のヨーロッパに対するどっちつかずの態度は、1973年以前から続いていた(イギリスの最初の参加申請は、1963年にフランスによって否決された)。 ヨーロッパとどう付き合うかという

  • 戦没者を悼むポピーが意味するもの

    BBCニュースを見た日人の友達から質問されたことがある。テレビに映るイギリス人がみんな、小さな赤いバッジを着けているのはどうして? 11月だったから、僕はすぐにピンときた。イギリス人が英霊記念日の近辺で身に着ける「ポピー(ケシ)」のことを言っているのだ。退役軍人のために募金をすると、引き換えに造花のポピーをもらえる。これを着けていると、戦没者に感謝の意を表することになる。 このポピーはイギリス人にとってはあまりに当たり前だったから、日人の友達がそれに目をとめて、わざわざ質問してきたことに興味を引かれた。 僕達が生まれる前からずっと、11月11日の英霊記念日が近づくとイギリス人はポピーを胸に飾り、この日に最も近い日曜日には全国で慰霊式典が行われてきた。 ところが友達から指摘されたことで、僕はこのイベントがかなり肥大化していることに気付かされた。今ではテレビ出演者は全員必ず、とりわけ英霊記

  • 知られざる少数民族「トラベラーズ」

    イギリスの作家ジョージ・オーウェルは、有名な「二重思考」という造語を考え出した。相反する二つの意見を同時に持つことができる、ということを意味する言葉だ。 オーウェルの反ユートピア小説『1984』に描かれた二重思考とはつまり、政権の言うことは真実ではないと国民が知りながら、それでも信じなければいけない、という状態を指している。状況は異なるけれど、僕は今、自分がこの二重思考に陥っていることを自覚している。 イギリスでは現在、世論を巻き込んだ10年越しの法的闘争が決着しようとしている。近々エセックス州当局が、デール・ファームと呼ばれる地域から数十組の家族を立ち退かせる見込みだ。彼らはこの地に不法に住居を建てて暮らしていた。 この一件は、ここ半年というものイギリスで大ニュースになっていた。著名活動家らが意見を戦わせ、有名なテレビジャーナリストたちが現地を取材し、多くの論説が新聞各紙をにぎわせた。

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