二日酔いの朝には汁物がほしくなる。 しじみの味噌汁なんてのが肝臓にはよさそうだけど、僕はいつも「ベーコンとキャベツのコンソメスープ」をつくって飲む。 こいつは簡単なくせに本当にうまいスープなんだが、何かが足りない。何度やっても、あいつと同じ味にはならないのだ。 二十代のはじめ、酒に溺れていた時期があった。 つらいことがあったわけじゃない。自分が何をしたいのかわからなくて、先が見えない不安を酒で散らしていた。どこにでもある若者の話だ。 「かんたんなようで、むずかしいのよ」 彼女は休日の朝にスープを作りながら言った。 今なら彼女の言葉がよくわかる。 ベーコンとキャベツをコンソメの素で煮るだけのこのスープが、どうしてもうまくできないのだ。人生も、あの頃想像していたものとは大きく違っている。何もかも、かんたんなようで、むずかしい。 あいつの言葉を思い出しながら、ベーコンを火にかける。ここでしっかり