子供にとって「大人っぽいもの」の代名詞と言えば、いつの時代も「コーヒー」が挙げられるんじゃないかと思う。 それは、小学生にとって身近な飲み物――給食で飲む牛乳だとか、夏場に飲む麦茶だとか、おやつに飲むジュースだとか――のどれとも異なり、得体が知れないけれど不思議な魅力を感じる存在だ。 僕が初めてそれを飲んだのも、たしか小学生のころだった。父親が飲んでいるのを見かけて、「ぼくも飲む!」と一口もらったところ……「なんじゃこりゃあ!」と一言。見た目そのままにドス黒い味を中和するべく、慌てて真っ白な牛乳で流しこむことによって、なんとか事なきを得たのだった。文字どおりの “苦い” 思い出である。 あんなにも苦いものをおいしそうに飲める大人は、きっと僕ら子供とはまったく別の生き物であるに違いない――。そんな、コーヒーによって自覚させられた「大人」と「子供」とのいかんともしがたい断絶は、同時に「大人っぽ