社会は防衛しなければならない 解説 石田英敬 コレージュ・ド・フランス 1976 パリの冬の朝はいつまでも暗い。家を出て授業へと急ぐとき街灯にはまだオレンジの灯がともり街角のあちこちには零下の気温の中でスチームの湯気がたちのぼり店を開いたばかりのパン屋の店先が照らしだされ、地下鉄の入り口のキオスクにもランプが灯っている。地下鉄が職場へといそぐ人びとを吐きだし、生暖かい濁った空気がまといつくようなオデオン駅の地下道を早足で抜けて、エコール街をソルボンヌの方へ、コレージュ・ド・フランスめざして向かう。吐く息は白く、ピンとした空気が顔を打つ。パリの冬がいまよりはずっと寒かった頃だ。そのような朝のうす暗がりを通ってコレージュの門をくぐり、右手の8番教室の方へ急ぐとそこはたいていもう人だかりがしていて、運良く入り口から部屋に入ることができても座れる席はもうない。窓際の窓枠壁にまで人びとが腰掛けている