小津安二郎は、その監督生涯を通して一番多く女優を泣かせた監督であった。 ‥‥‥という一文で始まるユニークな小津安二郎論、『原節子、号泣す』(末延芳晴、集英社新書、2014)を読んだ。 原節子と言えば戦前から戦後にかけて夥しい数の映画に出演した大スターで、「永遠の処女」「日本のグレタ・ガルボ」などと呼ばれ、小津監督の亡くなった1963年に43歳で引退して鎌倉に引きこもってからは一切のメディアに出ないまま、94歳に至る今、生ける伝説となっている女優。 本書は、小津映画のミューズとも言われた原節子という不世出の女優の「泣く演技」の分析を通して、小津安二郎の思想に迫っていくという内容だ。筆者の丁寧で熱の籠った筆致に強い牽引力があり、ミステリーを読むようにワクワクしながら読み進めることができた。以下、内容をおおまかに紹介。 現存する37本の小津作品のうち、監督が女優に泣かせている作品は30本に上ると
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