栗原康さんの著書『はたらかないで、たらふく食べたい 増補版――「生の負債」からの解放宣言』の文庫解説を公開いたします。作家・早助よう子さんによる友人ならではの解説です。 栗原さんとは友人として、ここ十年ほどおつきあいさせていただいている。文章は 饒舌だが、素顔の栗原さんは寡黙で、おとなしい。怒って声を荒げたり、人の悪口を 言ったりするところを見たことがない。いつも黙って、コツコツとお酒を飲んでいら っしゃる、道端のお地蔵さんのような、ありがたいようなお方である。 わたしたちは友人といっても、恋愛話などしたこともない、しようとも思わないよ そよそしい二人なのだが、一度だけ、 「もうすぐ彼女の誕生日なんです」 と、栗原さんが言い出したことがあった。 つきあい始めたばかりで、よっぽど嬉しかったのだろう。何かプレゼントすんの、 と問うと彼は、彼女は紅茶が好きな人なので、紅茶の詰め合わせを贈ろうと思