今から 90 年前に、寺田寅彦は『電気と文芸』というエッセイ集の中で、漫画と科学の同型性について言及している。彼がここでどのような漫画を想定していたのかは、定かではない。おそらく、欧米の風刺漫画や、北斎漫画のような戯画的なものを言っているのではないかと想定される。作家でもあり、物理学者でもある寺田寅彦のこのエッセイにおける視点は、漫画の本質を鮮やかに露呈させている。 科学が行ってきたのは、個別にこの宇宙に広がっている様々な物理現象を求心運動、等加速運動、正弦運動などに分解してその中の一つを抽出し他を捨象する事によって、そこに普遍的な方則を設定する、ということである。しかし、決して、落下物は、法則の通りにはこの現実世界では落下しない。物理学が扱えるのは理想運動であって、その理想運動自体は実在しない、様々な運動に共通して見いだせる『型』なのである。 一方、漫画が行ってきたのは、ある対象の形態的