この興奮が醒めないうちに書いておきたい。凄い本を読んだ。 マルクスを現代にアップデートさせた研究で世界的な注目を集める俊英・斎藤幸平の『人新世の「資本論」』である。 新書の世界には何年かに一度、画期的な本が現れる。 物事の見方に新しい方向から光を当てたり、これまでにないアイデアを提示したりして、読者の世界の見え方を一変させてしまうような本だ。ここでは細かく挙げないが、本好きであれば何冊も書名が思い浮かぶだろう。そうした本は、時に時代の空気をとらえたベストセラーとなり、あるいは長きにわたって読み継がれる名著となる。 本書もそうした系譜に連なる一冊だ。今後、「新書大賞」や「紀伊国屋じんぶん大賞」などでは、間違いなく上位にランクインするだろう。のっけから「大風呂敷を広げている」と思われるだろうか?だが、本書の内容を知れば、誰もが納得せざるを得ない。この本にはそれほど重要なことが書かれている。 近
10 books that blew my mind Posted by Joseph Heath on July 5, 2015 | education 今現在、個人的には完全に真夏モードに入っているので、しばらくブログのエントリは軽い内容が増える予定だ。この機会に、過去に幾人かから寄せられてきた質問への返答を投稿しておこう。ということで、このエントリ、私の物事への見方に強い影響力を与えた(あるいは、私の思考を根源レベルで変更するに至ったり、私の卑小な考えを一変させたような)書籍10冊を挙げさせてもらっている。10冊からは古典を除いているので、全て第二次世界大戦終結以後に出版された書籍となっている。 1.ユルゲン・ハーバーマス『晩期資本主義における正統化の諸問題』1973年 2.ユルゲン・ハーバーマス『コミュニケイション的行為の理論』1978年 3.タルコット・パーソンズ『社会体系論』1
私たちはなぜ働くのか マルクスと考える資本と労働の経済学 作者: 佐々木隆治 出版社/メーカー: 旬報社 発売日: 2012/09/01 メディア: 単行本(ソフトカバー) 購入: 1人 クリック: 4回 この商品を含むブログ (6件) を見る 「自己責任論」をのりこえる―連帯と「社会的責任」の哲学 作者: 吉崎祥司 出版社/メーカー: 学習の友社 発売日: 2014/12/05 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 半月ほど前になるが、資本主義やネオリベラリズムを批判するタイプの書籍をまとめて読んでいたタイミングがあった。 『私たちはなぜ働くのか マルクスと考える資本と労働の経済学』は、タイトル通り、マルクス主義における労働についての考え方を解説した本。タイトルから期待したほど「私たちはなぜ働くのか」というテーマについて面白い答えが得られた訳ではなかったが、まあ哲学の解説書とし
1.日本アカデミズムのなかのPolitical Economy 日本の大学におけるマルクス経済学はどうなったのかというのが編集部からの問いかけであるが、これに答えるのはなかなか難しい。というのは、現在では1950年代から60年代のように、「マル経」(マルクス経済学)と「近経」(近代経済学)という二つの経済学がはっきりと分かれて対峙していた時代とは大きく状況が変わっているからである。また、「マルクス経済学」ということでどのような特徴をもった経済学を考えるのか、あるいは「マルクス経済学」にこだわることにどれほどの意義があるかについての見解も、「マルクス経済学者」とみなされる経済学者自身をとってもまちまちだからである。 筆者自身の見方を説明する前に、通常マルクス経済学者の中心学会とみなされ、現在でも800人近い会員を擁している「経済理論学会」(註1)が現在自らをどのように規定しているかを見ておこ
ポストコロナ、アフターコロナというタイトルや惹句がつく本が増えてきました。そんな中、コロナ時代を考える本として話題になっているのがこの『武器としての「資本論」』です。コロナ禍がここまでなっていなかった時期に書かれた本ながら、今の世の中を理解するために「資本論」がどう活躍するか、を易しく書いており、経済に詳しくない層にも高く評価されています。 この本の発売日は4月11日頃、緊急事態宣言が出た直後に店頭に並んだことになります。ここまでどんな動きをしてきたのでしょうか。日販オープンネットワークWINのデータをもとに発売からの日別の売上グラフを作成してみました。 発売直後から、大型店舗を中心に閉店が相次ぎました。この本は大学構内の書店でも非常に良く売れているのですが、4月、5月は大学にも人がいない状態が続いています。こういったこともあり、しばらくはジワジワとした売上期間が続きました。目立った動きが
読み終えて本を閉じた瞬間、この本あるいは著者に出会えて心からよかった、と思えるようなものは極めて少ないでしょう。本書は、そうした稀少な1冊です。 今回紹介する『私たちはどこまで資本主義に従うのかー市場経済には「第3の柱」が必要である』(ヘンリー・ミンツバーグ:ダイヤモンド社)は、わずか200ページたらずという新書なみの分量の啓蒙的小著ながら、「私たちの世界は、危険なまでにバランスを失っている」という切迫感から本書を著したミンツバーグが語る内容に、読み始めると一気呵成に引き込まれます。 ヘンリー・ミンツバーグの日本での認知度は、ピーター・ドラッカー、マイケル・ポーターには及びませんし著作も二人に比べて数えるほどです。 しかし、経営戦略やマネジメント分野において、21世紀の今日では上記の二人と同等もしくはそれ以上に世界的に高い評価を得ています。 かく言う私も名前だけは知っていましたが、ミンツバ
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欧米のグリーン・ニューディール政策 斎藤幸平(以下、斎藤):前編で名前を挙げたギリシャ元財務相で経済学者のバルファキスは、DiEM25(Democracy in Europe Movement 2025)という大きな運動を展開しています。これは、2025年までに、本当の民主主義を実現するような新しいEUをつくろうという国家横断的なプロジェクトです。 このプロジェクトが大きく打ち出しているのが、グリーン・ニューディール政策です。特別公債を発行して、グリーンなエネルギーや技術に投資する。そうやって安定した雇用を作り出し、エネルギー効率のいい公共住宅や公共交通機関を拡張するわけです。これは、緑の社会システムに移行を促進すると同時に、貧困問題の対策にもなる。 水野和夫(以下、水野):どのぐらいのお金でEUをグリーン経済にできると試算しているんですか。 斎藤:ひとまず2020年から5年間で300兆円
斎藤幸平(以下、斎藤):私自身も水野さんと同じように考えていますが、とくに最近は、資本主義のハード・ランディングが経済の大混乱のみならず、地球環境そのものを破壊するところまでいくのではないかという危機感を抱いています。実際、過剰な利潤追求が引き起こした気候変動に代表される、環境危機の問題が極めて深刻になってきています。 今、ここで私たちが何を選ぶかで未来が変わってしまう「大分岐の時代」を迎えています。 水野和夫(以下、水野):『未来への大分岐』には、私も大いに触発されました。 日本の経済論壇がアベノミクスの是非に拘泥している間に、海外では資本主義の次の社会をどう構想するのか、これほどまでに具体的な議論が進んでいるのかと驚きました。日本だけが「大分岐の時代」にいることから目を背けているのかもしれないね。 資本主義の危機はどこまで進行しているか 斎藤:「資本主義の終わりを想像するより、世界の終
ある全国紙から大阪の維新の人気についてアンケートを受けた。説明が要るので長い回答を書いたが、紙面に載るのはこの10分の1くらいなので、オリジナルを掲載しておく。 Q1:大阪維新の会は立ち上げから10年を迎えました。当初は橋下徹氏の人気頼みの面が否めませんでしたが、15年に橋下氏が去った後も、高い支持を誇っています。平松市長時代に大阪市の特別顧問も務めた内田様からご覧になって、橋下氏が不在でも維新がこれだけの支持を得続けているのはなぜだと思われますか。 大阪の人に訊くと、とにかく維新の議員たちは「どぶ板選挙」に徹して、地域住民の声を汲み上げる点で他党に優れているそうです。でも、「どぶ板」は自民党はじめ他党もやってきていることですから、そこに決定的な差があるとは思いません。やはり維新のイデオロギーが大阪の人たちに広く好感されているのだと思います。 僕はそれは一種の「リバタリアニズム」ではないか
「社会主義計算」論争が生じたのは19世紀末だ。産業革命がもたらした壮絶な貧困を証拠として、社会主義者たち、マルクス主義者たちなど、自由放任の批判者たちは自由市場がつまりは失敗し、生産と分配についてコントロールできる優しい政府のほうが、財をもっと効率よく平等に割り振れるのだ、と論じた。「社会主義計算」論争が起きたのは、自由放任の支持者たちが市場のほうがリソースをうまく、あるいは少なくとも無限に賢い政府と比べてもひけをとらないくらいにうまく割り振れるのだ、と論じて、これが論争となった。 この論争は、マルクス主義学派が登場したときから始まっていたとはいえ、正式に「社会主義計算」論争を真剣に議論したのはワルラス派経済学者であるエンリコ・バローネだ。バローネは、1908 年論文「集産主義国家における生産省」でこれを論じ、続いてパレート (1896; 1906: p.266-9) も独自の考察を行った
年がら年じゅうブログなどを書き続けている私だが、私なりにメインテーマみたいなものを持っている。 2013年頃まで、そのメインテーマは「自己愛」だったが、2014年頃から「急激な社会の進歩」に変わった。 たとえば2019年の1月に書いた『日本の破局的な少子化と、急ぎすぎた近代化』というブログ記事もそうしたテーマに沿ったもので、一日あたりのPV数の記録を塗り替えるほど、たくさんの人に読まれた。 日本の破局的な少子化と、急ぎすぎた近代化 -シロクマの屑籠 日本も東アジアの新興国も、かつては近代化や経済発展を旗印に、つまり、欧米諸国のようになることを目標としてきた。ほかのアジアやアフリカの途上国も同様だろう。 しかし、急激な近代化とは、いったいどういうものだったのか? 急激に近代化し、経済発展を遂げた国々がたどり着いた破局的な人口減少を目の当たりにした時、長い時間をかけてたくさんの植民地を食い荒ら
松尾先生の『「はだかの王様」の経済学』(asin:4492371052)に対する山形さんの強烈な書評を読んでの感想を書いてみるよ。ていうかやっぱりルソーって罪深いよなあとつくづく思いました。南無南無。 松尾先生のこの本は未読なんで(でも例によって買って積んではある)、そもそもこの時点であれこれ書くのは失礼千万な話だとは思う。なので、あくまで今回のエントリは、山形さん、econ-economeさんによる書評、および田中先生のエントリ、松尾先生ご自身の疎外に関する説明を読んでの感想ということでご容赦下さい。近日中にちゃんと読んで、必要であれば訂正するようにいたします。これ変だ、ってところがあれば是非ご指摘いただきたく。よろしくおながいします。 ということでまずは山形さんの力説するとおり、やっぱり「疎外」って考え方はどこにも行き着かない袋小路のようなものだなあ、と改めて思った次第。 例えばわかり
なぜマルクスは正しかったのか 著者:テリー イーグルトン 販売元:河出書房新社 (2011-05-24) 販売元:Amazon.co.jp ★★☆☆☆ 原著の書名”Why Marx Was Right”は、いろいろな皮肉を含んでいる。第一に、社会主義が崩壊してマルクスは間違っていたと思われている時代に、マルクス自身の思想を正当に再評価すること。そしてもう一つは、彼の思想は近代のオーソドックスな自由主義の延長上にあり、現代の右翼(保守主義)とも通じる面があるということだ。 著者もいうように、マルクスが「平等な社会」を求めていたなどというのは間違いで、マルクスはむしろ所得を平等に分配しようという社会民主党の綱領を酷評した。彼は国家が経済に介入することを拒絶し、労働者が自分の主人になる「個人的所有」を理想としていたのだ。彼が描いた未来社会は「自由の国」であり、この意味ではロックからヘーゲルに連な
はじめに 昨今の社会は何かが狂っている。昨年夏のウクライナ上空でのマレーシア航空機の墜落の原因は一年たっても不明である。重要なデータは即座に回収できたにも関わらず、その後何の報道もない。しかし、一方で航空機を落とした犯人はロシア派ということにされ、それ以後アメリカやEU、そして日本によるロシアへの制裁はすぐに決定された。なぜマスコミは真相を究明しないのか? 普通の航空機事故では、原因究明は急がれ、一刻も早い原因究明は飛行機の安全を確保する使命を担っている。今回の事故はミサイル攻撃だというが、本当にそうかどうか、そしていったい誰が撃ち落としたのかどうかを発表すべきなのだが。 今社会は向こう側とこちら側に分かれているのかもしれない。ベルリンの壁の崩壊以後始まった資本主義世界が、再びリーマンショックを契機に、もとの二つの世界に戻ったのかもしれない。なるほど、かつても東西対立の中で西側に属する日本
記事保存 日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。 1917年に社会主義政権を樹立したロシア革命から11月7日で101年を迎えます。この日は旧ソ連時代の最大の祝日「革命記念日」で、赤の広場などで祝典が開かれていましたが、1991年のソ連崩壊後は政府主催の記念行事は開かれなくなりました。現在のロシアではロシア革命について、その後の社会主義政権下での政治弾圧や経済破綻の経験から、批判的な意見が多いといいます。 ところが一方、かつて資本主義陣営としてソ連と対峙(たいじ)した米英では、今になって社会主義が若者を中心に大衆の人気を集めています。 米国では2016年大統領選の民主党予備選で民主社会主義者のバーニー・サンダース上院議員が旋風を巻き起こし、11月の中間選挙に向け今年6月にニューヨークの選挙区で行われた同党予備選では、サンダース氏
記事保存 日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。 この2018年は、共産主義の父といわれる哲学者・経済学者、カール・マルクスの生誕200年にあたります。出生地であるドイツのトリーアで記念式典が開かれ、青年時代を描いた映画が各国で公開されるなど、話題を集めています。 先月創刊した、古典・名著をマンガ化する新シリーズ「講談社まんが学術文庫」の初回刊行分にも、マルクスの主著『資本論』が入りました。近代資本主義が興隆する19世紀英国を舞台に物語が展開し、『資本論』のエッセンスを解説します。若い登場人物たちのドラマは楽しめます。 けれども、原作である『資本論』が不朽の古典として扱われることには抵抗を感じます。今からみれば、経済について完全に誤った考えに基づいているからです。 たとえば「等価交換」という考えです。マンガ版ではパン屋と八百屋
記事保存 日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。 1917年に社会主義政権を樹立したロシア革命から11月7日で101年を迎えます。この日は旧ソ連時代の最大の祝日「革命記念日」で、赤の広場などで祝典が開かれていましたが、1991年のソ連崩壊後は政府主催の記念行事は開かれなくなりました。現在のロシアではロシア革命について、その後の社会主義政権下での政治弾圧や経済破綻の経験から、批判的な意見が多いといいます。 ところが一方、かつて資本主義陣営としてソ連と対峙(たいじ)した米英では、今になって社会主義が若者を中心に大衆の人気を集めています。 米国では2016年大統領選の民主党予備選で民主社会主義者のバーニー・サンダース上院議員が旋風を巻き起こし、11月の中間選挙に向け今年6月にニューヨークの選挙区で行われた同党予備選では、サンダース氏
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