政治的に「右」か、「左」か。そんなことにこだわる時代は、もう終わったのではないだろうか。日本の歴史における天皇という存在、そしてその「初代」とされる神武天皇についても、戦後歴史学が積み上げてきた成果と方法によって研究すべき課題がたくさん残っているのではないか――。講談社選書メチエの新刊『神武天皇の歴史学』は、そうした思いを新たに抱かせてくれる意欲作だ。著者の外池昇氏に話を聞いた。 そんなに毛嫌いしなくても… ――まず、最初にお聞きしたいのですが、神武天皇って、実在したのでしょうか。 外池 それがいつも、まず聞かれることなんです(笑)。私の答えは、歴史上の他の人物と同様の意味では「いない」、ということになりますね。それはつまり、同時代の史料や考古学的資料で存在が確認できない、ということです。 ただ注意したいのは、『古事記』と『日本書紀』に共通して初代天皇と位置付けられている。もちろん、記紀の