ケン・ローチの『レディバード・レディバード』の凄さは「体制側の横暴により善良な市民が子供を奪われる」という単純な図式に陥っていないところだと思う。なぜなら主人公のマギーは「善良な市民」なんかではなくて、明らかに人間的に問題のある人物として描かれているから。それでも、杓子定規な行動によってマギーの子供を奪うのは、彼女の人間としての尊厳を奪っているのに等しいと思える。マギーのような「問題のある」人間は生きる価値がないとでもいうのだろうか? ケン・ローチは単純な「泣ける話」を作るのではなくて、映画を通して「基本的人権」についての根源的な問いかけを行い、観客一人一人が自分自身の頭で考えることを促している。世界の負の側面をあれだけ描きながら、それでもまだ現実の社会で生きる人間を信じているってこと。やはりケン・ローチは真のヒューマニストと呼ぶに相応しい存在だと思う。 そして、安易な「ハッピーエンド」を