パトリシア・ハイスミスは長編第1作の『見知らぬ乗客』(1950)がヒッチコックによって映画化(1951)、第3作の映画化『太陽がいっぱい』(1955/ルネ・クレマン)が大ヒット(1960)し、一躍人気作家の仲間入りを果たした。『パトリシア・ハイスミスに恋して』は、ハイスミスと親密な関係にあった人物と彼女の親類へのアプローチを経て、まさに“映画的”とも言える人生を送った彼女の創作と人生の秘密に迫った作品である。 かつてスーザン・ソンタグは、作り手と作品は別のものであり、私は作品のみを評価すると語った(『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』(2020)で引用されたトーク番組の抜粋映像)が、作品の作り手である作者がどのような人物であるのかを知ることは、昨今、重要度が増しているように思える。こうした傾向は、インターネットを通じた情報の浸透によって、作品における虚構性の濃淡が否応なしに透けて見え