こんな話がございます。 唐土(もろこし)の漢の時代の話でございます。 かの国の汝南郡は汝陽なる地に。 西門亭ト申す旅舎がございましたが。 この宿はある不名誉な噂で、人々によく知られておりました。 それは、夜に二階に泊まる者があるト。 必ず怪異があるトいうことでして。 何者か、いや、呪いか祟りか、ともかく何らかの気が現れまして。 旅客の精気を、白髪になるまで抜き取ってしまう。 その噂が遠く都まで届いているほどでございました。 さて、ここに鄭奇と申す豪胆な男がございまして。 この者は汝南郡の役人でございますが。 こちらは神をも恐れぬことで、人々からよく知られておりました。 ある時、鄭奇は所用で汝陽へ向かいましたが。 あと数里ほどというところで、日が暮れてまいりました。 ト、そこへ、 「あの、お役人様でございますか」 暗がりから突然声を掛けてきた者がある。 見れば若い女で、不安げな様子でこちらを
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