こんな話がございます。 芝神明宮の近くに、江島屋と申す古着屋が暖簾を掛けておりました。 古着屋と申しますが、蔵まで持っているような、大店でございます。 ト申しますのも、婚礼の晴れ着や弔いの喪服などというものは、値は張りますが毎日着るようなものじゃない。 一生に何度着るか分からないようなもののために、そうそう大金ははたけません。 そこで、繁盛するのが古着屋で。 ろくに着られないうちに古くなった着物を買い集め、町人相手に安く売る。 古着とはいえ、元は上物ですから見栄えは良い。 町人などは必要な時が来たら、こういったもので間に合わせます。 お侍でもサンピン――イヤ、未だご栄達に縁のない方や、ご浪人なども、こうした古着屋で羽織袴を調達されるそうですが。 ところが、本当に繁盛している古着屋というのは、何もこれだけで食っているわけではない。 俗に「イカモノ」と申しますが、縫いの甘い粗悪品を、それら上物