こんな話がございます。 昔、ある旅の商人が、隠岐国の山を越している途中で日が暮れてしまいました。 それでも山の頂上まで上っていきますト、大きな松の木がございました。 身の丈より高いところに、大きな股がある。 商人はよじ登って、そこに横たわり眠ることにいたしました。 夜更け。 商人がぐっすり眠っておりますト。 何やら木の下の方から物音がする。 商人は目を覚まして驚いた。 ナント、山猫がざっと数十匹、木の周りを取り囲んでいる。 鋭く夜目を光らせて、こちらを狙い、うなっている。 いつ飛びかかってくるのではないかと、商人は気が気でない。 とは言え、こう取り囲まれては出来ることなどございません。 ただ、立ち去ってくれるのを待ちながら、そのうなり声に耳を傾けている。 ト、そのうちに商人はとんでもないことに気がついた。 山猫たちはただうなっているのではない。 口々に人語をつぶやいているのでございます。