こんな話がございます。 相州のとある川の畔に、五郎兵衛ト申す馬方が住んでおりました。 五郎兵衛は真面目で几帳面な男でございまして。 馬もその気質をよく知ってか、聞き分け良く働きます。 五郎兵衛は馬を非常に大事にする。 馬も五郎兵衛に心から懐いている。 この馬は、人間なら十六の娘といったところの牝馬で。 名前は赤(あか)ト申します。 五郎兵衛と赤は、まるで夫婦のように。 互いに息の合った、良い相棒でございました。 ある日のこと。 五郎兵衛は川の浅瀬で、赤を洗ってやっておりました。 「今日は天気も良かったし、おまえもよく働いたから、汗びっしょりになってしまったなあ」 ナドと言いながら。 自分も汗びっしょりになって、馬を磨いております。 赤も気持ちよさそうに、五郎兵衛に身を委ねている。 ト――。 淵の水の中をスーッ、スーッと。 何者かが行ったり来たりするのが見えました。 背丈からするト、人間のよ