こんな話がございます。 奥州は遠野郷のある村に。 七兵衛と十兵衛ト申す二人の若者がおりまして。 三年を期日と定めて、江戸へ稼ぎに出かけました。 七兵衛は道楽者の怠け者でございますが。 十兵衛は真面目一徹の働き者でございます。 村にいるときも、七兵衛は遊んでばかりで働こうとしない。 一方の十兵衛は、病気がちの老母を一人で養っておりましたので。 朝から晩まで働き詰めの日々を送っておりました。 それでも弱音ひとつ吐こうとしない。 何もかもが正反対の二人でございます。 また、特段仲が良かったわけでもない。 では、どうしてこんな不釣り合いな二人の者が。 一緒に旅に出ることになったかト申しますト。 ひとえに七兵衛の悪巧みからで。 ある夕暮れ時。 七兵衛は、働き疲れて家路に就く十兵衛に。 不意に近づいてきて、声を掛けた。 実は昼間からずっと待ち伏せていた。 「おお、十兵衛。精が出るな」 「おや、七兵衛か