こんな話がございます。 肥州長崎は唐船着岸の津にございます。 綾羅錦繍の織物に金銀の糸、薬種にその他もろもろの品。 種々の珍貨が絶えることなく我が朝へ入ってくる。 その玄関口でございまして。 日本六十余州のあきんどが当地へ来たりて商売をする。 その賑わいぶりは、難波を凌ぎ京にも劣らずト称されるほど。 かの地には丸山ト申す遊郭がございますナ。 唐人、紅毛人の気を引こうト、着飾った女郎たちがひしめいている。 いにしえの江口、神崎ナドもかくやト思わせる華やかさで。 もっとも、光が差せば影が従い、陽気が興れば陰気が篭もります。 裏路地へ一歩踏み入るト、表のきらびやかさトハもう別世界。 揚荷抜きの小悪党、行き場を失った年増女郎。 食いはぐれたドラ猫に、汚物にまみれたドブネズミ。 夜ともなれば、魑魅魍魎が跋扈するとかしないとか。 さて、この丸山遊郭の一角に、枡屋ト申す女郎屋がございまして。 ここに左馬