こんな話がございます。 三代家光公の御世のこと。 豊前国小倉藩は細川殿の領国でございましたが。 その隷下に高橋甚太夫ト申す弓足軽の大将がおりました。 この者は曲がりなりにも大将トハいいながら。 武士の風上にも置けぬ小人物で。 いま、足軽トハいえ大将の職責にありますのも。 実は同僚の手柄を盗んで奏上したためであるという。 ところが、この者がそれでもなんとかやっておりますのは。 一にも二にも、この者には惜しいほどのよくできた妻があったためで。 妻は名を千鶴ト申しまして。 近在の百姓の娘でございましたが。 容姿は地味ながら美しく。 人となりはしとやかで慎み深く。 まさにその名が示す通り。 掃き溜めに鶴といった趣で。 さて、この頃は諸国大名の国替えが頻繁に行われておりましたが。 細川殿もかの肥後国熊本藩へ転封と相成りました。 夫婦は初めて生まれ故郷を離れましたが。 亭主は異国暮らしに浮かれたものか
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