こんな話がございます。 唐土(もろこし)の話でございます。 越の紹興に沈某という若者がございまして。 この者の住処は東岳廟の参詣の途次にございました。 東岳廟トハ何ぞやト申しますト。 これは泰山府君を祀るもので。 では泰山府君トハ何ぞやト申しますト。 これは寿命を司る神でございます。 それ故、泰山府君は非常に篤い信仰を集めている。 参道は人出も多く賑やかでございます。 沈は参詣客たちに自宅で酒食を振る舞っておりました。 我が朝で申さば、さしづめ伊勢の御師みたいなものでしょうナ。 さて、三月二十八日は泰山府君の誕辰。 つまり生誕日でございます。 参道はひときわ賑やかとなりまして。 沈家の門内も押すな押すなの大盛況。 沈も客たちの世話に馳せまわっておりましたが。 その喧騒という泥中に。 咲く蓮の花のごとき女の姿。 高貴な身なりの若い女人が。 外から門内を覗く姿がちらりト見えた。 その身は人形の
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