<1>海鳴り(藤沢周平著/藤沢周平全集第19巻所収/文藝春秋/3568円) <2>玄鳥(藤沢周平著/藤沢周平全集第6巻所収/文藝春秋/3568円) <3>蝉しぐれ(藤沢周平著/藤沢周平全集第20巻所収/文藝春秋/3568円) 私は、刑事裁判官を長くしていたが、最近出版した本の中で、裁判官が正しい事実認定をするには、多くの文学作品を読むことも必要だと書いた。確かに、裁判そのものをテーマにした名作も少なくない。しかし、それが具体的な裁判で直接役に立つ訳ではない。また、冤罪(えんざい)か否かの判断をするに際して、ある作品が参考になったという経験もない。そうではなく、文学作品に多く接していると、そこに人間のあり方や姿を濃厚に読み取ることができる。刑事裁判も結局は被告人とされた人間を扱う。その姿をどう理解するのかということがポイントだ。その意味で、人間観察力はよい刑事裁判官、そしてよい裁判員に必要と