私たちは普段、国家を非常に強固な存在と考えている。国家ほど確かなものはないと信じて生きている。だがじつのところ、国家ほどあやふやでいい加減なものはない。本書は、国家のそうしたあやふやさ、よく言えば融通無害な側面に気づかせてくれる好著だ。 たとえば一般に国家が成立するための三要素は「領土、国民、主権」とされ、領土を持たない国家などというものを私たちは通常想像することができない。ところがあるのだ。マルタ騎士団は領土がないのに世界の百四カ国と外交関係を結んでいる。ローマに本拠地があるが、ここはイタリアから借りた土地で、自前の領土ではない。 領土と言えば、普通は隣接する土地について権利を主張するものだ。ところがシベリアにある小国トゥバ共和国に対しては、遠く離れた台湾が領有権を主張している。台湾政府(中華民国)は1949年に共産党との内戦に敗れて台湾にいるものの、公式には現在でもシナ大陸は中華民国の