ネタ その日は、朝から生憎の空模様であった。低く垂れ込めた重苦しい雲が空全体を覆い、窓から外を眺める沙也香の心の中にまで染み込んでくるかのようであった。 沙也香は、憂鬱であった。彼女は雨が降らぬことを祈っていた。何故なら、彼女は登校するときに傘を持ってこなかったからである。 沙也香が傘を持って来なかったのには理由がある。数日前、沙也香は校舎の軒先で雨宿りをしている一人の少女を見かけたのだ。少女の姿は、鬱陶しい雨の中で静かに咲く紫陽花の如き美しさを放っていた。少女の姿に目を奪われた沙也香は思わず声を掛けた。「−傘をお持ちではなくって?」少女は恥ずかしそうに俯き乍らも、こくりと頷いた。「宜しかったら、この傘を使っても良くってよ」沙也香は、そういうと彼女が手にしていた傘を少女に見せた。少女は驚いて「−でも、それでは貴女様が雨に濡れてしまいます」と云った。沙也香は微笑んで「良いのよ。わたくしは、学