はじめに 「私の欲しいものをください、そうすればあなたの欲しいものをあげましょう。」(アダム・スミス 1959(1776:118))ちょっと身もふたもない言い方だが、アダム・スミスの言うとおりなら、これこそが我々の社会をなりたたせる基本原理だということになる。なるほど、自分の生活に必要な物をすべて自分一人で作っている者など誰もいないわけで、だとするとそれらは誰かから手に入れてくるほかない。その手に入れる手段というのが冒頭のような取り引き、つまり「交換」だというのである。「こうして、あらゆる人は、交換することによって生活し、つまりある程度商人になり、また社会そのものも、適切にいえば一つの商業社会に成長するのである。」(アダム・スミス 1959(1776:133)) とはいっても、我々の場合必要なものはたいてい買って手に入れているのであり、これをわざわざ「交換」と呼ぶのは若干ずれがあるような気