◆ 爺ちゃんは俺を立ち上がらせると、そのまま俺の手を引いて小走りで進んだ。 普段なら聞こえるはずの蛙の鳴き声が一切聞こえなかった。 いや、蛙だけじゃない。虫も獣もそうだ。 息を潜めて、なにか恐ろしいものに気づかれないようにじっとしている。 嵐が過ぎ去るのを待つかのように。 そんな風に思った。 連れてこられた場所は村の寺だった。 一度、兄ちゃんと一緒に爺ちゃんに連れてこられたことがある。 その時見た、扁額――お寺の看板の文字があまりにも難しかったけれど、あとで爺ちゃんが「悪霊とか妖怪とか絶対殺す(寺-゛)(し)」と読むんやで、と教えてくれた。 つい、一週間前のことだ。 その一週間前が遠い。どれだけ手を伸ばしても届きそうにない。 兄ちゃんは死んで、俺も――なにか恐ろしいことに巻き込まれている。 「儂や……」 爺ちゃんが人目をはばかるように、そろりと言った。 厳重に閉められていた寺門が、ぎいぎい